…さて、あれから更に数日が経ちました。気になる状況がどうなったかといえば… まずご主人からいきますね。ご主人はあれからおじ様の適切な処置やリョウさんの 献身的な…、本当に片時も目を離さないような看病のおかげで持ち直しました。 多少まだお熱はあるみたいですが、それも 「多少」 の程度で治まってきましたから もうほとんど治っているといってもいいんです。“ご主人は” …ね。 「…熱は下がったが、治りかけてきちゃいるが、ここで気を抜いたら一気に台無し。  まだまだ気は抜けないといわざるを得ないな……」 そして、リョウさんです。多分私が敢えて言わなくてもお分かりでしょうけれど… …ハイ。あれからも相変わらず同じような生活を続けていました。その結果として 目の下に隈ができてお肌の色も土気色に薄黒くなり、頬をはじめ体も結構痩せて しまっていまして…、もう正直、いつ倒れてしまうんじゃないかとかなり心配して ました。でもそのリョウさんの一生懸命が実を結んで、ご主人はここまで回復 した…、つまりはもう少しで終わることが出来るということです! 「…さぁて、この分なら今朝は朝飯を食えるかな……?」 …ご主人? ここでご主人がきっちり目を覚ましてくれないと全部が台無しに なっちゃうんですよ? だから…言い方は変ですけど、リョウさんのためにも ぱっちりと目を覚ましてくださいね? …と! 「………、う…ん……。あ…。おはよう、リョウ……」 「! おう! …よーく眠れたみたいだな!」 おおっ! 起きました! それも今までのようなぼんやりしたお目目や言葉じゃ ありません! とすると、これは……! 「…その様子からするに、ほとんど治ったみたいだな? 今までみたいに夜中に  うなされて起きることもなくなったし、熱も微熱程度に収まってきたからな…」 「あ。う、うん。そうだと思うよ。体のだるさもなくなってきたし、熱もほとんど感じ  なくなってきたから、もうほとんど治ってる…わね」 うんうん、確かに。前は茹でたての茹で蛸みたく、魔理沙に乗せられて飲めも しないくせにお酒を飲んでつぶれたときみたく (ちなみにその時色々ハズカシイ 写真を撮られてましたッ! 閲覧希望であれば(ry) 真っ赤になってましたが 今はほんのり桃色になりましたからね。これで駄目なら今度はDIOおじ様に 気化冷凍法で凍らせてもらうしかないですが、さて…… 「…じゃあ、食欲も戻ってるか? 今まではお前、本当に雀の涙程度しか  喰えなかったが…、喰えるんだったら朝飯作るつもりだが、どうする?  ああ、安心しろ。ちゃんと病み上がりの人間用のものを作ってやるから……」 …そうですよね。ご主人がこれだけ回復してるなら、食欲も当然戻っていると 予想されますよね。…ぷぷぷ。実は先程、リョウさんがおトイレに行ったときに ですね、ご主人は目を覚ましていたんですが…、その時聞いちゃったんですよ。 ご主人のお腹が、それは盛大にグーグー鳴ったのを! ふふふ…! その時の ご主人ときたらですね、あたふたし出して声にならない悲鳴をあげながらお腹と 扉を首を振って交互にきょろきょろと…。結局リョウさんが戻ってくるころには 鳴りやんで、ご主人は狸寝入り始めたんですけどね。一体あなたはおいくつ ですかと小一時間問い詰めてみたい心境にもなりましたが、それはそれとして… 「え? あ…、朝食? あの、作るなら私が……」 「いやいや、まだお前治りかけたばかりだろ。いきなり動くと体には良くないと  言わざるを得ないぜ。…なーに、さっきも言ったろ。まともなもんをちゃんと  作ってやるから、ここで大人しく待ってろ。な?」 朝食と聞いて、ご主人は体を起こして作りに行こうとしましたが、ここはまだ リョウさんの言われるように、お言葉に甘えておいた方がよろしいですねぇ。 …そうするとまぁ、ご主人もそう言う言葉が返ってくるのを期待していたんで しょうかね。“とても素直に” またベッドに戻り、それを見届けたリョウさんも 安心したようにふっと笑ってから部屋を出て行きまして…。その後ご主人は しばらくそのリョウさんの出て行った扉を見つめた後、大きく何度か深呼吸 して…、おお。ものすごい嬉しそうな笑顔を浮かべました…! 「気持ちが、いい…! 今まで当たり前だと思ってた 『健康である』 っていう  ことが、こんなに気持ちがいいものだったなんて…! …私が、この気持ちを  味わえたのは…、元気になれたのは……」 うんうん。どこの誰が言ったかは忘れましたが…、“当たり前のことに感謝する” これが一番大切なことなのですよね。まぁ、大抵は失ってから初めて気がつくと いうことになってしまうんですが。ふふふ。リョウさんにも本当に感謝してくださいよ? 私達の何倍も何倍も、ご主人のために動いていてくれたんですからね…? …ん? 嬉しそうに深呼吸したご主人、今度は私の方を見ています。何かお使い でしょうか、と思っていると…… 「…ねぇ上海。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、聞かせてくれる? …ああ  そんな難しいことじゃないわ。ちょっと前にDIOが来たとき、リョウがやけに難しい  顔して話をしてたでしょ? あのとき私も実は起きてはいたんだけど、熱で朦朧と  してたから何を話してたかは聞こえなくってね…。でもあなたは聞いてたよね?  だから二人が何を話してたか、聞かせてくれないかしら…?」 ぎょえっ! そ、それはあのときの話ですか…!? でも厳密なものではないに しても、一応秘匿指令が出ていますからおいそれとお話するわけには…… 「…上海? もしかして、お話ししてくれないとか…?」 …でも、駄目ですね。アリスの使い魔の私では造物主のご主人に隠し事なんて できません(しても最後にはバレてお仕置きされます)から、仕方ないですか… ごめんなさい、リョウさん! 上海は脅迫(?)に屈します……! ………………………………………… 「…そう、なんだ…。そうだったんだ…。確かに私も、あいつはどうしてここまで  してくれるんだろうって思ってたけど…、そんな経緯があったんだね……。  …ふふ、ふふふ…。…嬉しい、なぁ…。本当に…。だって、まだ出会ってから  そんなに時間も経ってないのに、もう私をユリちゃんや、お母さんのロネット  さんと同じように見てくれてたなんて…」 あらら。今、あの時のお話をご主人になるべく正確にお伝えしたんですが… ご主人ったら、また涙を浮かべ始めましたよ…。う。うーん。でもちょっと 違和感を感じると言わざるを…、あ。…と、とにかく! 何せご主人は他人に 自分の弱い一面を見せることを極端に嫌う性格でしたから、こんな…私達に だって泣いてるところを見せるなんてあり得なかったですし。…そうして少し 鼻をくすくす啜って涙を拭くと、ご主人は目つきをしっかりさせました…。 「…前々からこうするとは考えてたけど、でもこれで、それが一層強くなったわ…。  上海、蓬莱。これからのことだけど…、私はもう文字通りに全身全霊であいつに  恩返しをしていくわ。あんた達には悪いけれど、“完全自立人形の制作” よりも  優先させていくから…、それでも文句なんてないわよね?」 あたぼうですッ! むしろ文句なんて言った日にはご主人でもシバきますよッ! さーて、となると色々と考えなきゃいけませんね! 掃除洗濯炊事等家事ごとは 当然として、他に私達やご主人が出来ることといえば……と動き出そうとした その時、リョウさんがご飯を持って入って来ちゃいました。あうーち。これから ご主人とお話しするところでしたが、まぁいいですか…。 まだまだこれから、時間はたくさんあるんですからね……。 ………………………………………………………… 「いや、一応書いてある通りには作ったつもりだが、あまり期待は……」 「う、ううん! これ、とっても……、すごく美味しいよ!」 うふふ。その言葉に偽り無しッ! 熱が高かったころはほとんど食べられなかった ご主人ですが、今は本当に美味しそうに食べています。そしてそれを見ている リョウさんも本当に嬉しそうな顔をして…。ああ、良き光景ですなぁ…… 「……ごちそうさま、でした」 「ほー。ここまできれいに食べてくれたってことは、本当に大丈夫そうだな。  まぁいい。それじゃ片付けるから、もうしばらく寝て……」 あらま、病み上がり初日でもう完食ですか! さーすがに生命力はゴキブ…… も、もといッ! 流石にあの激戦を勝ち抜いてきただけのことはありますッ! とは言っても無理されちゃ困りますから、言われるとおりにさっさと…… 「ん? …お、おい、どうした? 何かまだ調子でも悪いのか…?」 「う、ううん。そうじゃないの。ええと、ええとね……」 と? あららご主人、リョウさんの伸ばした手を握りました? …ははあ。飯が 足らないからもっとよこせという意思表示ですね? うんうん。以前ならたとえ お腹が減っていても決して追加などとは言わず、影で山のような量のお菓子や パンをばれないようにとこそこそ食べていたものでしたが、そこから比べれば 素直になったものです! さーて、今日はどれくらいを頼むつも…… 「…本当に、ありがとう。リョウ……。私がこうやって元気になれたのも、食事が  出来るのも、体が動かせるようになったのも、みんなあなたのおかげなんだよ…。  …こんな私を看病してくれて、元気になるまでお世話してくれて…。 …月並み  だけど、すごく…、すごく感謝してるよ……」 「え? あ、ああ。そう言ってもらえりゃ俺としても嬉しい限りだが、えー……」 …………………………………………………………………………。ハッ! い、今一瞬ご主人の口から出てきた言葉に思わず耳を疑ってしまいましたが そうでした! ご主人のツンデレねじくれはことおじ様や(特に)リョウさんに 対しては、かなり解消されていたんでした! さっきのさっきで目の当たりにした ばかりだというのに忘れていたとは、それだけ今まで受けていたアリスの呪い (トップシィクレット!)が強かったということでしょうか…! 「私…、今まであなたにとてもお世話になってきたし、…迷惑もかけてきちゃったと  思うから…、だから、その恩返しをさせてほしいの…。もちろん今回みたいな  無茶はしないから、大丈夫だから……。絶対にあなたの役に立つから、ね……?」 「おお、恩返しか! そこまで気を遣う必要はないが…、しかしお前が何かして  くれるって言うんなら、それはそれで楽しみだと言わざるを得ない! …そうだな。  とりあえず食器を片付けてくるから、話はそれからでいいか?」 「あ、うん! 早く戻ってきてね!」 …そしてそこから間髪入れずに、この流れ…。リョウさんもさることながら、ご主人も 目をきらっきらさせてリョウさんを見つめてお話しして、お見送り…。こりゃどーこの 青春ドラマの一幕でしょうねぇ? 以前は “こんな作り物、見てたって何とも面白く ないわッ!” なんて言っていたのを自分がやってたら世話がないですよ。ええ。 魔理沙のことを 『天然タラシ』 なーんてどの口が言うですか。あなただって立派な(ry… ご、ごほん! まったく、毎回毎回調子に乗りそうになるのは我ながら悪い癖です! まぁ完全に飛び出す一歩手前で気がつくからまだ良しとしまして…、とにかく今は リョウさんが戻るのを待つと致しますか……。 ………………………………………………………………… 「うーん? …あいつ、食器を片付けたらすぐに戻ってくるって言ってたのに  何やってるんだろ…? …上海、蓬莱。ちょっと一緒に様子見に行こうか?」 …あれから、しばらく。ご主人と一緒に色々相談していたりしたんですが… 確かにご主人の言うとおり、リョウさんがなかなか戻ってきません。ご主人も心配 そうな顔をし始めましたが…、何となく。何となくこの上海の小さな頭の中には 嫌な予感が生じてきました。これまでのリョウさんの姿を見ている限りでは……。  「うーん。いくら新居だからって、迷うはずもないし…。本当にどうしたのかな?  もしかしてトイレにでも……、!!」 そして、廊下を曲がったところで…! この上海の悪い予感はズッキューンな 結末を迎えてしまいました! 即ち…目の前に倒れている、リョウさんの姿ッ! 「りょ、リョウ!? どうしたの!? しっかりして、リョウ!?」 あー! どうしてこーいうときに限って予感ってのは当たってしまうんですかねッ! まぁご主人が回復してから起こったのが、不幸中の幸いと言うべきでしょうか… なんて、悠長に考え事してる場合じゃありませんッ! 今は…… 「…上海、蓬莱ッ! 今すぐ準備して! 今すぐよッ!」 …さぁて、ご主人にとっては第1、私達は第2ラウンドの始まりです…ね! ………………………………………………… 「…まさか、ここまで予想通りになるとはな。とことん単細胞且つ猪突猛進…。  これでよくぞ、今まで戦いの世界を生き残ってこられたものだ……」 「お、お願いだからそんな言い方しないで! こいつは何も悪くないんだから!  悪いのは熱なんか出してリョウに迷惑かけた私で、リョウは…!」 …そして、しばらくです。あれからDIOのおじ様をお呼び出ししたわけですが…。 んむふー。ご主人、いくらリョウさんがぶっ倒れたからってあたふたしすぎです。 おじ様にグルグル(ネコ)パンチなんかやってどーするんですか。呆れ顔で 笑われてますよ? ぷぷぷっ!!  「ククク。まぁこいつの評価はともかくとして、今の状態だったな。…まぁこれも  言うまでもないだろうが、過労で倒れただけ…数日もあれば復活するだろう。  …チッ。もう少し熱が高ければ気化冷凍法の実験台にする口実が出来たものを。  どこまで行っても気の利かぬ奴だな…」 …今おじ様は、最後の方で何か恐ろしいことを言っていたような気がしましたが… まぁ、気のせいでしょう!(半ば自己暗示) とにかくそこまで重傷じゃないっていう 確信が得られて安心しました。一方のご主人もようやくネコパンチをやめましたが… 「? 何だ? まだ何かあるのか…?」 「うん。ええとね、その……」 …おりょ? 何か様子が変ですね。今度はご主人、もじもじしながらおじ様の顔を 見つめています…? リョウさんに関して心配事が、まだ何かあるんでしょうか? お。話し出しましたね。さてさて…? 「その…、あなたも知ってるとは思うけれど、私、今までこいつに散々迷惑かけて  きちゃったから、その恩返しがしたくて…。それで、私もリョウの好みとかは一通り  把握してるつもりなんだけれど、あなただったらあいつの…男同士っていうことで  私が知らない部分も知ってるんじゃないかって思ったのよ。だから、その……」 「ほう、それはまた殊勝な心がけよ。それならば協力せねばなるまいな……」 おお、そういうことでしたか。流石ご主人! ちゃんと素直な一面もありまして… 対するおじ様もGJです! ご主人がもじもじし始めたあたりから何を言い出すか 予想がついていたような様子でしたが、とにかくあっさりと快諾してくれて…。まぁ ご主人でもリョウさんの好きなことはよく把握してると思うんですが、それにおじ様の 助言が加われば鬼に金棒ってやつですね! さぁ、おじ様はどんな言葉を…… 「そうだな…。やはり何はともあれ、最初の基本は『裸エプロン』だな!」 「は? …な、何て言ったの、今……? はだか…えぷろん…?」 「何だ、知らぬのか? …あれだ。まずは全裸になって、その上にエプロンだけを  着用してな。そしてリョウが帰ってきたらこう言って出迎えてやるのだ。『お帰り!  今夜は何にする? ご飯? お風呂? それとも…私?』 とな。これは古より  男女の仲を深めるには抜群の効果を有していると……」 …お、おじ様? 何か目がきらきらと輝いてますが…、とんでもないこと言って ませんか? ほら、ワールドさんも唖然とした顔してますし…… げ。ご主人も眉をひくつかせて…、…今度はおじ様の頭に拳骨をガツンと…… 「じょ、冗談を少しは理解せぬかッ! …まぁいい。奴に恩返しをしたいのなら  その問いの答えは一つだ。今まで通り普通に接してやればいい。下手に飾った  行動を取れば、お前達の間に歪みを生じさせる可能性とてあるからな…」 「あ…。…や、やっぱり…、そうなのかな。…ううん。そうだよね……」 ふーむ。個人的には実行してもそれはそれで見物だったと思いますが、まぁ それはさておき。やっぱりうわべを飾るよりは素のままの自然体が一番って事 なんでしょうね。ご主人も今度は納得したような顔をして頷いてます…。 ……………………………………………………………… 「さてと。まぁ…、とりあえずはこんなところだな。そろそろこのDIOは帰るが…  一応言っておけば、休むのを忘れるなよ。お前も回復したとはいえ病み上がり  には違いない。…今度お前も倒れたら、いい加減に面倒は見きれぬぞ……」 「うん、大丈夫。今まで散々迷惑かけてきたけど、もう大丈夫だから……」 んむふ。そしていつの間にか時間が朝になっていたようで、おじ様は帰り支度を 始めました…。ここでおじ様にしては珍しく厳しい顔をして釘を刺していますが それもごもっとも。確かにここでご主人がまた倒れたら元の木阿弥にもなりません からねぇ。まぁ流石に今のご主人なら大丈夫でしょう…。 ………………………………………………………………… 「ふぅ…。もう…朝か。時間が経つのも早いわね……」 さて、おじ様もお帰りになって。時間も朝ですからご主人は台所に移動、朝食を 作り始めました。まぁ一人分ですからちゃっちゃと作ってちゃっちゃと食べて お仕事に移っちゃいましょう! ご主…人? 「…できた…ね。…できた……けど……」 おりょ? ご主人、折角自分の分の食事は作ったのに食べようとしないですが… どうしたんですか? ま、まさか病気がまた再発したとか!? …と思っていると ご主人は小さく笑いながら私たちの方を向いてきました。一体…? 「…不思議なもの、よね。幻想郷にいたころは一人で食事をしていたのが当たり前  だったのに、今じゃそれをすると…。…まぁ、あいつが駄目だって言えば仕方が  ないけれど…、上海、蓬莱。食事を寝室まで持って行きたいから、お手伝いして  くれない…? ふふ……」 ……。ふぇ? 寝室ってことはリョウさんの…? でも、どうして…? 人形の頭では こんがらがってしまいます…。うーん。とにかく、ご主人が行きたいというなら従う 必要がありますね。リョウさんが承諾してくれるかどうかは分かりませんが、とにかく ご主人がお鍋、私がお皿、蓬莱がドア開けでいざ寝室にレッツゴー、といきますか! …………………………………………………………… 「……ん、食事か。ありがとよ…、と? あ、アリス? お前それ、俺の分だけじゃ  なくてお前の分もあるのか? どうしてそんなもん持ってここに…?」 「ううん…。…ご飯を食べようと思ったんだけど、一人で食べるとすごく寂しくて、味気  なく感じちゃって…ね。だから…、あなたがいいなら私もここで食べたいんだけど…  いいかな? もちろん匂いをかぐと気分が悪くなるとか、そういうのだったら遠慮  しないで言ってもらえばいいんだけど…。ど、どうかな…?」 …ああ。私達に食事を持ってこさせたのはそういう意味だったんですね。でも… ご主人は口では遠慮するなとか言ってますが、実際はもじもじしながら上目遣いで リョウさんの顔をちらちら見て…、もうハイと言わせようとしてるの丸わかりですねぇ。 まー普通の男の子だったらこんなのイチコロでしょうけど、さて、リョウさんは…? 「…そうか。まぁ病人の横で飯食って美味いかどうかは知らんが、いいぜ?  もちろん今日は俺はほとんど食えないが、形式に関してはいつも通りで…な!」 「あ、ありがとう! …ふふふ…。それじゃあ、準備するね!」 対するリョウさんも…、ご主人の “魔術” は通じたのかな。まぁとにかく、どうやら そこまで気分は悪くないようなので快諾してくれましたが…。あーあ。それを聞いた 瞬間のご主人のあの顔…。今ご主人の中のツンデレ比率はツン0デレ10じゃない かと思っちゃうくらいに、デレッデレになっちゃってまぁ…。多分今ならこの料理に 唐辛子を山ほどぶち込んでも気付かないでしょうねぇ。 「あー、匂いかいでるうちに多少は腹が動いてきたか…? アリスよ。今なら  汁物は喰えそうになってきたから、スープ一杯くれねぇか…?」 「うん! ちょ、ちょっと待ってね! 今すぐつけるから……」 えーと、室温がガンガン上昇している気がするのは私だけでしょうかね? 特に ご主人が顔を赤らめて頭から…、いえ全身から蒸気を上らせているように見え… …まったく、付き合い始めてから久しいというのにこんな、彼氏が出来て間もない 女の子みたいなうぶな反応を…。録画して皆に見せてやりましょ……、をッ!? 『……………………………………………』 あ、ありのまま今この上海の目に入ったことを言いますッ! …さっきまでは何も なかったはずの窓の外に、人影が…! しかもその人影は大きくてごつごつして いて、何より手の甲には時計の文字盤が! …これは…!! 『…おお、これは上海殿。いえですね。出歯亀をしていたわけではないのですが  何分状況が状況だけにお声をかけづらくて。…それにしても、良い雰囲気です  なぁ。まるで我が主と水銀燈様を見ているようですよ…』 きゃー! って、ワールドさん! 親指立てて笑ってる場合じゃないですよ! いつの間にそこにいたんですかァッ!? もしやおじ様も近くにッ!? 『いえいえ。私がこう…、独立思考に目覚めてからというもの、射程距離の概念が  なくなりましてね。我が主がどこにいてもどこにでも行けるようになったのですよ。  それで今回、我が主は城で仕事がありますので私にお二人の様子を見に行く  ように命ぜられたのですが、この分ですとその必要もなかったようですな…』 あ、そういうことだったんですね。…それにしても、おじ様がそんなことを。 …やれやれ。これじゃ私のご主人と同じようなものですが、今はそんなことは どうでもよいのですよッ! 何故なら…… 「本当に、こんな…あなたに恩返しできる日をどれだけ待ったかな…? ふふ…。  今までは戦闘でも、それ以外でもあなたのお荷物になってきちゃってたけど  これからは大丈夫だよ? あなたの役に立つから…ね?」 「おいおい。お荷物だとか恩返しだとか、そいつはお前考えすぎだと……  ま、まぁいいか。…おう! これからも頼むぜ!」 『…いやー。まさに “鉄板” の名にふさわしいですなぁ。我が主にこれ以上ない  よい報告が出来そうです……』 ですよね! ふふふ…。主人の幸せは、しもべの幸せ。あのツンデレねじくれ 触るな危険のご主人を受け入れてくれる素敵な男性がいてくれて、あうあう。 この上海、今はこの上ない嬉しさを感じていますよ…! ま、あとはこの機に乗じてご主人が素敵な男の子のお人形を作ってくれれば 最高なんですがね! ムッハー! …オシマイ。 ハイ。これにて上海シリーズは終了です。まぁ元々はひねくれ者の思考故に 「こういう視点のはないな」という考えの下で作り出した代物で、ところどころ (と言うよりは結構)悪ノリとかもさせてみました……。 まぁ個人的には同じ?しもべキャラのザ・ワールドとの絡みが気に入りです。