注意:この話は以前書いた【持ちつ持たれつ】を上海人形の視点で書いたもの ですが…、甘さがおよそ3割り増しくらいになっています(特に後半は)。多分! ちなみに全く同じだと面白くないので、細かいところが変わっている時も ありますが、大筋は変わっていませんので。ういうい。 うふふ。こんにちは。…私は上海です。いつも蓬莱と一緒に人形師のご主人 アリス・マーガトロイドにこき使わ……もとい使役してお役に立っているしもべ兼 マスコットっていうところでしょうか。…あ、今言いかけたこととかはご主人には 内緒でお願いしますね。こんなこと言ってるのがバレたら、きつーい折檻を 受けちゃいますから…。 さてそれはともかく…、まぁ言うまでもないかもしれませんけど、今ご主人の人生は バラ色なんです。多分魔理沙が全力のファイナルスパークを叩き込んでも全く意に 介さず…ニコニコと笑っているくらいでしょうか。…え? 何故かって? 決まってる じゃないですか。ご主人に春が訪れたんですよ。そのお相手はこれも周知の事実 でしょうけど、リョウっていう空手家さん。本当にいい人なんですよね。…あんまり 大きな声じゃ言えないですけど、私らのご主人は見た目は本当に可愛らしいのに 性格がちょっと難有りで、素直じゃないからどうしても噛みついたり突っかかったり することが多くて…。だから結局近づく人はいても喧嘩別れになること多数なんです。 友達にしても魔理沙はよくあれだけ難しいご主人と、深く長く付き合えてるものだと 感心しちゃいます…。 …で、そうそう。リョウさんですリョウさん。何かこう呼ぶとどこかの眉毛の繋がった ドタバタ警官を思い出しちゃいますけど、それはおいておいて…。ふふふ。多分 御本人としては意識してないでしょうけど、実に上手くご主人を捌いているんですね。 例えは悪いけど、言うなら猛牛の突進をかわす闘牛士みたく…。あ、これも内緒に。 ご主人が突っかかってきても真正面からぶつかるんじゃなく、巧妙に受け流して いつの間にかご主人も治まっちゃって。…あと性格も平常時は温厚で寛容だから そこも上手くご主人と噛み合って…、というやりとりがあったのも最初だけでしたね。 と言うのもご主人は他の人と接するときは以前のままなんですけど、リョウさんと 一緒にいる時だけは、すっかり甘えてデレデレになっちゃうんです。これだとそのうち 「あなたがいないと生きていけない」 なんて言い出しそうですね? うふふ。 …それで現在、ニコニコの騒動が終わったから皆それぞれ帰る場所に帰って いったんですけれど…、予想通りと言うんでしょうか? あの古城でこわーい DIOのおじさまと戦った後から二人の関係は変わっていって…、いよいよ皆が それぞれ帰るっていう時に、こんなお話ししてたんです… ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ “…ようやく終わって…、これでいよいよ皆とも今生とは行かなくてもお別れか” “…………………………………” 騒動の根源のテラケイオスをやっつけて、いよいよ平和が戻ったわけですから 何度も言うように皆 【いつか帰る場所】 にご帰還していったんです。リョウさんは えーと、サウスタウンとかいったかな。それとご主人は幻想郷ですから、普通なら ここでお別れして後は気が向いたときに同窓会みたいな流れになるんですよね。 ところが、二人は違いました。ふふふ。かねてよりお約束をしてあったんでしょう。 それぞれの故郷に帰ることはせずに、まずDIOおじ様のところに行ったんです! “ほう。二人で生活する、と? それはそれは、クク……!” “な、何だよDIO、その気味の悪い笑みは!?” “そ、そうよ! だってまだ何も……、! あぅぅ……” “何だ? このDIOはまだ何も言っておらぬが、何を勝手に進めている? クク…!” ふふふ。最初からこんなにおじ様のペースに乗せられていちゃ、勝ち目なんて ありませんよね。それもこの後、あんな贈り物をされちゃ尚更です… “フン。しかし住む宛はあるのか? どうせまだ決めていないのだろう? …ならば  一つ良い贈り物をやろう。実はこの前ある賭けをやってな。その戦利品として家を  一軒手に入れたのだ。だがこのDIOには既にこの古城があるし、水銀燈共々  どこかに旅行する趣味もないから別荘にも使えぬ。つまりこのままでは朽ちていく  だけなのでな。…というわけで、どうだ? 勿論家賃など取りはせぬが…?” “え? そ、そりゃ願ったりだが、しかし……” “いくら使う予定がないからって、全くの無料でもらうって言うのは……” いきなりの、こんな大きな贈り物。流石にご主人もリョウさんも最初は目を白黒させて 戸惑っていたようですが、でも次のおじ様の一言で完全にKO! でした! “なに、気にするな。新婚祝いだと思えば良かろう? 実際どうせ遅かれ早かれ  するのだろうからな! 家族が増えても充分な広さもある値打ちものだぞ?” …それだけだったのに、二人とも一瞬で顔を真っ赤に沸騰させて、あちこちを きょろきょろし出して…。本当、可愛かったですよ…。あ、その時こっそり撮影 しておいた映像があるんですけど、見たいですか? ご主人には内緒ですよ…? …さて、ええと。前置き長くなっちゃいました。すみませんね。それで現在に移りますが 今ご主人はお引っ越しの最中で、一旦幻想郷に戻って荷物を運び出しているところで 勿論、私たちも一緒に手伝っているところです! 「ふぅ。…ここも長く住んだから、見納めとなるとちょっと寂しいような気もするかな…」 どこか遠く、物寂しそうな目をして呟くご主人。ノスタルジィってやつでしょうか? …でもご主人、私も幻想郷を離れるのは複雑な気分にもなりますけれど、これから もっと幸せな生活が待ってるじゃないですか? …と、私は「シャンハイ」としか声が出せ ませんけど、しかし私たちの造物主だけあってご主人は私の言いたいことを分かって くれ、にっこりと微笑んでくれました。 「ふふふ。そうよね上海、蓬莱。これから先、あいつと一緒に暮らして、結婚して  子供を作って…。その成長を見守りながら平和に…幸せに暮らすんだ…。  …ふふふっ! 本当に今からわくわくしてきちゃうわ。ふふふ…!」 うふふふ。私も思わず笑みがこぼれちゃいます…が、ご主人? もしもし? 将来を想像してうっとりするのはいいんですが、そろそろ現世に帰ってきて… ご主人!? あの、今から顔がとろけきって…、もしもし、もしもーし!? ……………………………………………… 「おう、意外と早かったな!」 「うん! それじゃ私も、すぐに始めるね!」 まったく、私たちが叩き起こさなきゃ未だに夢うつつを漂っていたでしょうに…。 まぁそれはともかくとして、幻想郷からここまでは結構距離があるので“ゆかりん タクシー” なるもので空間をいじくってここまで直結してもらいました! でも これってタクシーなの?とも思いましたが今はそれどころじゃないんですね。今度は 荷物を運び入れなきゃいけないんですが、流石に鍛えているだけあってリョウさんは 頼りになりますねぇ。あんな重い荷物を軽々と! …うーん。私には到底真似でき ませんが、それでもそこそこの力はありますから、私と蓬莱も微力ながらお手伝い しています。んしょんしょ…。 「いやしかし、二人だけだと思ってたら結構荷物があるものなんだな?」 「本当よね。でもまぁどこだってこれくらいはあるでしょ?」 ええ、本当に。まぁご主人の場合は主に服と…魔導書なんですけどね。前者は ともかくとして、後者は唯でさえ多かったのに、この前魔理沙が今まで借りてた… もといちょろまかしていった本が返還されて加わりましたから、かなりの量です。 ああ、しかも本がぎっしり詰まった箱っていうのは引っ越しで1、2を争う難物で…! …リョウさんは一人でも運んでますが、運び出すときと同様にご主人が運ぶ際 には私たち二体が補助しなければ! …ああ、疲れます……! …でも、今私はご主人とリョウさんの愛の巣を作るお手伝いをしているんだと思うと ご主人の幸せのために動いていると思うとやり甲斐はありますね。…え? 何か 表現がヒワイに聞こえるって? それはあなたの妄想力のせいで…って、あら…? 「お、おい、どうした? 調子でも悪いのか?」 今のはリョウさんの声…ということは、ご主人に何か!? 荷物の整理もそこそこに 蓬莱と一緒に声のする方に飛び出してみると、そこには頭を押さえてうずくまっている ご主人の姿が! …って、だ、大丈夫ですか、ご主人!? 「何でも…ないわ。…急にお引っ越しの…運動したから疲れちゃっただけ…。  …だ、大丈夫だって! 一緒に戦ってたときなんて、もっとすごいことやってた  でしょ? だから私がこんな程度でへばるはずがないじゃない?」 …私たち三人は、しばらくご主人の様子をうかがっていましたが…、しばらくすると 私と蓬莱はともかく、かなり心配そうなリョウさんに対して素直じゃない…と言うよりは 心配させまいという心からでしょう。ご主人はすぐに笑顔を見せて何事もなかったかの ように立ち上がりました。でも私もそれなりの年月をご主人と一緒に暮らしてきたから 分かりますけど、ご主人は確かに筋力の意味ではか弱い女の子ですが、健康という 意味では、以前リョウさんが昏睡した時みたいなよほどの無茶をしない限りは、今まで 病気はおろか貧血にすらなったことがないんです。ないのに、そんなご主人が頭を 押さえてうずくまる? …これはかなり、変な雰囲気ですよ…? 「そ、そうか? …まぁお前がそういうならいいが、無理はしてくれるなよ?  …それじゃあ俺は中で片付けやってくるから、お前もすぐ来いよ!」 …リョウさんはそのまま家の中に入っていきましたが…、蓬莱も同じ事を考えて いたんでしょうね。その直後に一緒にご主人のところへと飛んでいきました…。 「う…ぅ…? …一体、急に…どうしちゃったのかしら……?」 ああ、言わんこっちゃない。立ち上がったのも束の間でまた頭を押さえて……。 ご主人? 何か変ですよね? ご主人? ご主人……? 「…ああ、心配かけてごめんなさいね。…大丈夫よ。このくらいで私がどうにか  なるわけないでしょ? …多少疲れた程度で休んでちゃ、駄目よ……。  そんな程度でへこたれてちゃ、あいつに顔合わせが出来ないからね……」 …笑いながらそう言って、ご主人は私たちの頭をなでなでしてくれましたが… うーん。やっぱり様子が変です。いつもは朗らかな笑顔も今日はとっても無理してる ように見えて…。そもそも顔色が真っ青なわけですから、一目瞭然です。 …ご主人。 一度こうすると決めたらそれを突き通すっていうあなたのその姿勢はすごく立派だと 思います。だからこそ一流の人形遣いになれたわけですし、私たちも今みたく独立 思考を持てているわけですからね。…それで、リョウさんの恩に報いようとする今の ご主人の心もすごく良いとは思うんですけれども、でもだからって無理をしちゃマズイ ですよ? むしろとんでもないことになっちゃうと思うんですが…? 「…あいつは、それこそ数え切れないくらいに沢山私を救ってくれたの。でも  あいつがそうやって施してくれた恩を、私はまだまだ全然返せていない…  …もらいっぱなしなんて、そんなのは嫌。だから…、少しずつでも返して  いきたいのよ。…分かるかしら? 上海、蓬莱?」 …ああ、駄目だ。既にご主人の頭はリョウさんのことでいっぱいになってて、私の 声なんか届いてない…。…こうなったらもう、何も起こらないのを祈るしかない ですね。もっとも、大概何かが起こってしまうんですけれど……。 ……………………………………… 「ふいー。まぁこれで小物の整理も大体終わったか?」 「うん。これだけ片付けちゃえば、後はもう明日の午前中に完了するわね」 夜。食事を終えたお二人が、室内に運び込んだ荷物の整頓をしているところです。 あれから…、リョウさんもそうですが、私たちもどうも心配でご主人の様子をちらちら 伺っています(まぁご主人は気付いていないようですが)が、あれ以来変な様子も まるで見えませんから、どうやら一時的な不調だったのかもしれません。いくら病気 知らずとは言っても鉄人ではありませんから、たまにはああいうこともあるんでしょう。 「それじゃあもう、明日に備えて今日は寝ちまおうぜ。まだ仕事があるわけだしな…」 「…そうね。私ももう眠いから、お開きにしましょうか……」 さーて、これでお仕事もおしまいです。私も肩がこっちゃってこっちゃって! …え? 人形の肩がどうやったらこるんだって? …い、いいじゃないですかそんなこと! 私は高性能だからこるんですッ! まったく…。まぁとにかく私たちもお眠です。ふふ。 実はご主人がちゃーんと人形用のベッドを作ってくれてましてね、ふかふかなんですよ! え? 人形が寝る必要あるのかって? だからそんな野暮な質問はしないでください! とにかく寝るんです! もうっ! ぷんぷん! ……………………………………………………………… …すやすや。うーん。やっぱりご主人は人形だけじゃなく、こういう小物を作るのも一流 ですねぇ。まるで綿菓子か雲みたいにふわふわとふかふかとして…、ぐっすりです…。 さて、このまま朝まで熟睡と行きま……、? 何でしょう? リョウさんの声? しかも 何か焦っているように聞こえて…? まさか……!? 「な、何だこりゃ!? 滅茶苦茶熱い…、顔も真っ赤じゃねぇか! …おい!  アリス!? どうしたんだ? 起きろ、アリス?」 「あ……うぅ、……うう………」 未だにくーすか寝ていた蓬莱を叩き起こして、ご主人とリョウさんの寝室に飛び込んで みると、何と! …やっぱり悪い予感は当たってしまいました…! そこにあったのは 必死になってご主人を揺さぶったりして起こしにかかるリョウさんと、顔を真っ赤にして 苦しそうに息をして、起きる気配のないご主人で…。ヤバイですっ! こんなご主人は 私たちだって見るのが初めてです! キャー! と二人してあたふたしていると、リョウ さんが私たちが部屋に来たことに気付いたようで、大声で指示をくれました! 「おお、ちょうどいいぜ上海、蓬莱! 俺はDIOを呼び出すから、お前達は氷や  薬とかの準備をしてくれ! 急いでな!!」 おおう! この緊急事態にこうもてきぱき動けるとは指示待ち人間なんかではない バニ皇帝もお認めになってくれ…なんて懐かしのネタ出ししてる場合じゃなーいっ!! ああもうこれでご主人が何かとんでもない病気とかにかかってたら、どーすればいいん ですかー!? 私も蓬莱もエネルギー源はご主人の魔力ですから、最悪の場合は 共倒れになって、それで…… 「…おい、上海? 気持ちは分かるが少し落ち着け、な?」 …あう。知らないうちに人にも見えるくらいどたばとしてしまっていたようでした。 「アリスの使い魔」 だけに、ご主人が有事の際には一番冷静に動かなきゃいけない のに、私としたことが…。…いけませんね。頑張らないと! …………………………………………… 「それにしても、今まで病気などしたこともなかったアリスが急に倒れるとは、な」 「ああ。まさに青天の霹靂だよ。…それで、こいつは大丈夫なのか? DIO…?」 あれからすぐ、DIOのおじ様が私たちの家に駆けつけてくれました。おじ様は何人 もの名医と呼ばれるお医者の知識や経験を、血を介してその頭に有しているので 以前もご主人を助けてくれたりして、本当こういうときにはすごく頼りになるんです! …おっと! だからといってのんびりしちゃいられません! まだまだやることは いっぱいありますから! ホアター! 台所へレッツゴーです! 『上海殿、ビニールは氷を入れてそのまま使うと時間と共に結露が発生、結果  アリス様の体を濡らして症状を悪化させてしまう恐れがありますので、余計な  水分を吸い取るためにタオルでくるむと良いと思いますぞ』 はいー! 流石おじ様の分身だけあってこちらも頼りになります! …ああ、今 私と話をしているのはおじ様のスタンド…分身と言うべきでしょうか? とにかく ザ・ワールドさんです。…私は 「シャンハイ」 としか発音できず、ワールドさんに至っては 全くの無言でお互い人間の言葉は話せないのですが、しかしだからこそでしょうか 私達は私達だけで今のように会話が出来るんですね。何故かはお互い知りませんが とにかく意思疎通が出来るのはいいものです! こういう時でもスムーズですしね! 『とりあえず、氷袋は3つもあれば充分でしょう。頭に氷袋を当てるのは解熱の意味  では効果があるのかどうかは怪しいところですが、しかし清涼感を感じさせることは  出来ますからね。今はアリス様の苦しみを和らげるためにも、使うとしましょう!』  わお。流石におじ様が “ブッちぎりのスタンド” と評するだけあって、仕事もすごく 早いです! 私と蓬莱が二人がかりで、しかも時間がかかっていたのをほんの一瞬 とも呼べる速度で…! 思わずほれぼれして痺れちゃいそうです! …さぁ、これで後は設置するだけ! 蓬莱とワールドさんと一緒にご主人のところへ 飛んでいき、手早くワールドさんが掛け布団をめくったところに蓬莱と二人で ご主人の脇の下に氷袋を挟み、ワールドさんが布団をかけ直して額に袋を乗せて…        ア リ ス キ ス タ                     ...  イェイ! “主人回復運動” のミッション1(勝手に命名)、ほぼ完了! 全いくつ あるのかは私も知りませんが、とにかくこれで第一歩を踏み出しました! …さぁ、後はご主人が目を覚ましてくれれば “完了” なり得るのですが……! 「うむむ…。そ、それでアリスなんだが、本当に大丈夫なのか? まさか……」 「…気持ちは分かるが、落ち着けというのだ。こういうときには腰を落として  しっかりと構えているのがお前の役目だろう。そんな浮ついた根無し草では  二人共々吹き飛ばされるのがオチだぞ…?」 あややや…、やっぱりリョウさんも何だかんだで動揺しちゃってますが、でも DIOさんのおかげで何とか我を取り戻しているみたいです。うーん。流石に 巷で悪のカリスマと呼ばれているだけあって、その姿には威厳と貫禄があります ねぇ…。あのワールドさんのご主人なだけありますよ……。 「…ああ、そうだよな。俺としたことが……」 「フン。分かったか? …今は小康状態になったから、アリスを見守ってやるがいい」 …それで表面はともかく、心中でははらはらしながらその後しばらく、おじ様と リョウさん、私と蓬莱の4人掛けで見守っていると…、お? ご主人が小さな呻き声を あげて…、やった! 目を開けましたよ! 万歳ッ!! 「お、起きたか!」 「フム。お目覚めのようだな……」 「……!! あ、あれ、リョウ…、DIO…? それにあんた達も、皆…!?」 あははっ! ただご主人が目を覚ましたっていうだけで、こんなに嬉しいなんて! もう今の気分たるや、花火でもどんどん打ち上げたいようなものですよ!  「でも……リョウはともかく、何でDIO、あなたがここに……、!?」 「わ、お、おい。無理に起き上がるなって。横になってじっとしてろよ……?」 「その通りだな。そんな体で無理に動けばろくなことにならぬぞ」 わわわっ、あれだけひどい熱が出てるのにまともに動けるわけないじゃないですか! やっぱり言わんこっちゃありません。体を起こそうとしたご主人は、でも起き上がれ なくて。結局二人の忠告がなくても横にならざるを得ませんでしたね……。 「無理するなってことは、その……、私、やっぱり高熱とかが…?」 「大当たりもいいところだが、ここでようやく自覚が出たとは驚きだな…」 きゃうー。自分で自分の体の異変に気付かないって、相当ヤバイんじゃないですか? まぁ今までこんな病気なんかしたことなかったですから、無理もないですか……。 と? あら、ワールドさんが呼んでますね。そう言えばさっきから台所で何を…? 『いえ、我が主が診療を行っている間に簡単な病人食を作っておきましたのでね。  やはり基本はリンゴ。この私のパワーで握りつぶした生搾りジュースと、おろし金で  すり下ろした2つをご用意しておきました。これでしたら現在食欲をなくしておられる  でしょうアリス様でも無理なく食すことは出来るかと思われます。あと他の病人食に  関しては、先程我が主がリョウ様に作り方などを教えていたようですから、以降は  そちらをご参考に!』 きゃー! もう気が利きすぎて頼りになりすぎて、惚れちゃいそうです! ムフフ♪ …いけないいけない。しかし本当に助かりますよ。感謝感謝です……。 『それは何より。あとちなみにアリス様ですが、体温が上がっていたりすると冷たい  ものを望まれるかもしれませんが、お分かりとは思いますが冷えた食品を与える  のは厳禁です。唯でさえ胃腸が弱っているところに冷えた食品が入ってきては  ますますの悪化に繋がりかねませんから、最低でも室温のものをお与えください』 はい、承知していますよ。ビールは室温だとおっそろしくマズイですからキンキンに 冷やさないといけま…、こほん。 …に、人形でも液体は飲めるんですよ。水銀燈の お姉さんみたく…。…とにかく、今は美味しさよりも体への影響重視ですね! ………………………………………… 「やれやれ。まぁとりあえずどうにか落ち着いたろうし、そろそろ夜明けだからこの  DIOは一旦帰るとするぞ。やはり日光はどうも好きになれぬのでな」 「…ああ、わざわざ悪かったな。何から何まで世話になっちまって……」 それからしばらく、私たちとリョウさんは帰宅するおじ様を見送りに行きましたが 確かにその通りですね。私は私でワールドさんにお世話になりましたし…… ふふふ。ご主人が治ったらちゃんとお礼はしないといけませんね。でもおじ様は 何がお好みで……、これはワールドさんと後でお話しするとしましょうか。 とにかくDIOのおじ様、今夜はありがとうございましたです……。 「はー…。やっぱりあいつは頼りになるよな。…で、大丈夫かアリス?」 正確には、おじ様のワールドさんのお二人なんですけどね。それでリョウさんが ご主人に笑いながら話しかけると…、あら。何かご主人、表情暗いですね。また 調子が悪くなってきちゃったんですか?  「…ねぇ、リョウ…。さっきDIOとあなたが話をしてる時に、『そろそろ夜明けだ』 って  聞こえたけど…、今ってその、何時なの……?」 「え? …えーと、大体5時ぐらいだがどうかしたのか? …あぁ。明け方だから  眠気がないか? だけどとりあえず横になっておとなしく……」 そうですよ。風邪に限らず病気の時は、たとえ眠れなくてもおとなしく寝ているのが 回復のための一番の近道ですから。間違っても熱が高いときにゲームをやったり しちゃいけませんけどね。逆流しちゃいますから。ホントに。ホントのホントですよ。 …さて。さっきのご主人ですけど、表情が暗かった原因は……? 「ご、5時ってことは…、もう殆ど徹夜じゃない…? だったらあなたも、休んで……。  私のことなら、心配…いらないよ…? 上海や蓬莱もいるんだし……」 …ういうい。確かに徹夜は一日やっただけでも相当こたえますから、人形の私達は ともかくとして人間の…生身のリョウさんは休まれた方がよいと思いますけれど でもリョウさんはご主人の額を軽くデコピンで弾いて、顔を近づけて話し出しました…。 「おいおいアリス。茹で蛸みたく熱々で息も絶え絶えの今のお前に “心配するな”  なんて言われたところで、誰がああそうですかって言えると思うよ? …まったく  無茶は言うのもやるのもやめてくれと言わざるを得ないぜ…。上海や蓬莱に  しても、今のお前が継続的に奴らに魔力を供給できる保証があるのか…?」 「! あ、うぅ…。そ、それは……」 うーん。今まではこう、電池が切れるみたいにふっと私たちの意識が途切れる なんてことはなかったんですが、それはご主人がこんな病気したことがなかった からで…。ともすれば今の状況、確かにリョウさんの言う通りかもしれません。 「分かったか? 分かったら余計なことを言わずに考えずに、ゆっくり休みな。  休んで、早くまた元気に戻ってくれりゃ、それが一番いいんだからよ……。  安心しろって。お前はまたすぐに元気になれるさ。俺も出来る限りは何でも  してやるから、何でも言えよ。な?」 「うん……。分かった。お願いね……?」 そしてリョウさんがご主人の頭をなでなですると、ご主人はすっかり安心した ような顔になってとろとろとまどろんで…、すぐに寝息を立てて眠っちゃいました。 くー! DIOのおじ様といいワールドさんといい、そしてこのリョウさんといい! 本当に頼りになる力強い人たちばかりですよっ! …うふふ。ご主人が元気に なったら、リョウさんみたいな格好良い男の子のお人形を作ってもらうように 頼んでみようかな。うふふふ。私もやっぱり……、ん?  「……、だ。………なんだよ。 …………………」 あ、あれ? ご主人はまた眠り始めましたけど、リョウさんはまだ何かご主人に 頭をなでながら話しかけてます…? …あのー、ご主人はもう眠ってるんですよ? もしもし? リョウさん、聞こえてますか…? 「…言うまでも、ないさ。この先何があろうが、俺はお前を絶対に助ける…。  お前をいち早く元気な姿に戻してやるさ。万が一棺桶に片足つっこむような  状態になったって、絶対に回復させる。絶対に、絶対だ……」 ……? な、何でしょう? いえ、“ご主人を助ける” って言ってくれてるのは 間違いないですし、それはとてもありがたいんですが…、でもさっきの言葉や 今の、傍で騒いでる私の言葉すら耳に入っていない様子から鑑みるに、少し 気合いが入りすぎなのでは…? 目つきもものすごくて、ややもすれば怖い くらいで…。こんなこと言うのは何ですが、ご主人は別にそこまで重病っていう わけでもないんですよ…? 「絶対に、だ…。これに関しちゃ、万に一つの間違いも起こすもんかよ……」 うむむむ? …以前にリョウさんはご主人に、 “俺はお前を護る” と言っては いましたが、どうもそれだけじゃないみたいですね……。 続く やってみました。持ちつ持たれつを上海の視点から。 むかーし「飼い猫の視点」でやってみたのをこちらに応用して…… でも結構話し口調で文章進めるのって難しいんだよね。