魔理沙6エリア再収集の旅 終編

-ニコニコエリア-

「何だ何だ。ミスパの連中も結構いい奴らばかりじゃねーか! 少なくとも海馬や
 軍曹よりはよっぽど友好的な気が…、と。多分あいつらがここのミスパなんだろう
 けど…、一体何やってんだ?」
本人達の耳に入ったら世にも恐ろしい目に遭わされそうなことを口にしつつ
魔理沙は壁から少しだけ顔を出して向こうの状況を覗き見ていた。見るとそこには
坊主風の男と、髪型はリーゼントで学ランに身を包んだ男が向かい合っていた。

「さぁ番長、いつでもよろしいですよ!」
「おう、坊主Cよ! これで吹っ飛んでも文句言うんじゃねぇぞ!」
お互い坊主C、番長と呼ばれた男達は不敵な笑みを浮かべると戦闘態勢と
身構えた。まさか内乱かと魔理沙が息を呑んでその光景を見守っていると
じきに番長の目に光が集中し、坊主Cは体を低めにぐっと構えた。

「うおらぁぁ!! メンチビームじゃぁぁ!!」
気合い一閃。次の瞬間番長の目から凄まじい勢いで光線が放たれ、それは
一直線に坊主Cへと向かっていった。
「お、おいおい! あの光線って結構強力って話だぞ!? 直撃したら…!」
当然ミスパの坊主Cと言えどもただで済むはずがない。思わず魔理沙は止めに
入ろうとしたが…、彼女の目の前で、信じられないことが起こった。

「すばらしいメンチビームです、番長…! これでこそ真価が発揮できるという
 ものです! 行きますぞ! ミスパタッグ用秘奥義! ハゲ・リフレクション!!」
「へ!? う、うわっ!?」
…あわや直撃して大爆発かと思いきや、坊主Cは懐から何やら…ワックスだろうか?
とにかく取り出して頭に塗りつけ、それが終わるとばっと頭を下げてつるりと光らせた
頭でメンチビームを反射、そのままビームは軌道を変えて的らしきものが描かれた
魔理沙の近くの壁に命中、的もろとも壁を吹き飛ばした。

「な、な、な……?」
あまりに急なことで目の前で何が起こったのか分からず戸惑う魔理沙をよそに
番長と坊主Cの二人は、実に満足そうな笑顔で手を取り合った。
「はっはっは! やるのう坊主C! 特訓を始めてからこんなに早く出来る
 ようになるとは、正直驚きが隠せんが……」
「こちらもですよ番長! もはや反射方向に関しては自由自在になったと
 言っても過言ではないでしょう! …しかし、お客の来訪でしょうか…?」
「うげげっ! ば、バレてる!?」
…まぁ、いくら轟音があったとはいえさっきから結構な大声を出しているので
気づかれても無理はないが、とにかく坊主Cと番長が自分の方へ歩いてきた。
学校といいここといい、つくづく自分はこういう隠密行動には向かないなと苦笑
しつつ、魔理沙は素直に姿を現した。

「ははは。べ、別にこそこそするつもりはなかったんだが、あんたらが何やら特訓
 してたから、邪魔するのもまずいかと思ってさ…。ま、それはともかくとして、私は
 霧雨魔理沙って言うんだが、連絡は……」
「霧雨…。ああ、オワタが言うとったのはお前のことかい。しかしなんじゃ、随分
 こまい娘じゃのう! ちゃんと飯は食うとるんか? がっはっは!」
「ははは。まぁまぁ番長、その辺で。…ふむ。ピコ麻呂様の仰っていた特徴と
 合致しますから、断定しても間違いはないでしょう。…遠路はるばるようこそ
 魔理沙殿。申し遅れましたが、身共はここニコニコエリアのミスパを務める
 坊主Cと削除番長でございます。以後お見知りおきを……」
「あ、ああ。わざわざ丁寧な挨拶、感謝するぜ……」
豪快に笑う削除番長とくそ丁寧な挨拶の坊主Cにやや戸惑いつつ、魔理沙は
頭を下げて返答とした……。

「さて、聞いた限りでは魔理沙殿は本を探しておられるとか。我らも一応書庫は
 有していますのでお探しの本がある可能性はありますが、一覧は今お持ちで
 しょうか? あるならお見せいただきたいのですが……」
「あ、ああ。この…、印がついてないのがまだ持ってない本なんだが……」
ある意味お決まりのやりとり。魔理沙が一覧を取り出すと二人…と言っても
殆ど坊主Cしか見ていないようなものだったが、とにかくそれにしばらく目を
やると、彼女に一覧を返しながら口を開いた。

「ふむ…。魔理沙殿、実に運が良かったですな。あなたが探している未発見の
 本ですが、ここの書庫に揃っておりますよ。勿論持ち出しは可能です」
「お! ほ、本当か!? やった…! これでとうとう……!! で、どこだ!?」
多分今までの流れからしてあるだろうとは思っていたが、しかし実際あると
聞かされると喜びも一塩と言うべきか。自分の胸が高鳴り、顔が紅潮していく
のを感じながら坊主Cに問いかけた。しかし

「ははは。そう焦らず……、む」
「はっはっは。今度は招かれざる客が来たようじゃのう?」
「……………!」
先程まで豪快に、あるいは柔和に笑っていた二人は突如ぴくりと顔色を変えると
辺りに目をやった。ただならぬ気配に魔理沙も警戒態勢を取る中、現れたのは…
…どこか目つきのおかしくなった、ニコニコエリアの所謂雑魚キャラ達だった。

「ど、どういうことだ? こいつらとあんたらは、言わば仲間同士じゃ……?」
確かに彼女の言うとおりで、ニコニコエリアに巣くう雑魚キャラが立ちはだかって
きた場合、魔理沙はともかく坊主Cと削除番長は戦う必要など無いはずのに
二人とも今にも飛び出しそうな勢いで身構えながら…、魔理沙に声をかけてきた。
「まぁ、ちょっと前まではお前の言うとおりだったんじゃ。じゃがお前達があの
 テラケイオスを叩きつぶして以来、こいつらは司令塔を失ったわけじゃからな。
 儂らはよかったがこいつらに関しては、制御する者がおらんくなって暴走を
 始めたということじゃい」
「今の彼らには敵味方の区別などありませんから、私でも番長でもお構いなしに
 襲ってくるのです。流石に後れを取るわけにはいきませんから、先程のように
 退けるための戦術を磨く戦闘訓練も、必要になってきたのですよ……」
「ちっ…! となると本をもらうのは、こいつらを駆除してからだな…!!」
彼女の言葉に二人が頷くと、それを合図にしたように敵達が一斉に飛びかかってきた。


「なめとんならシゴしたるぞ雑魚共がぁぁ!! メンチビームじゃあああ!!」
雑魚も一匹なら他愛もないとはいえ、集団で迫ってくるとそれはそれで迫力があるが
そんなものに臆した様子など欠片も見せず、むしろそれ以上の迫力をほとばしらせて
削除番長は渾身のメンチビームを繰り出し、雑魚敵を一気に焼き払った。

「流石にやりますな、番長! さて、私も気張らないといけませんね……」
番長に気圧されたのか一部の敵達は坊主Cに矛先を変えたが、対する坊主Cは
番長と同じように全くの余裕顔でばっと右腕を挙げた。
「我が格闘術は、ここまで磨き上げることが出来ました。…即ち、伝説の大魔王の
 技までも! 『究極の掟破りの空中元彌チョップ』! カラミティエンドッ!!」
…それは幸か不幸か、目の前の坊主がどんな恐ろしい術を習得したことを知らぬ
雑魚が一匹坊主Cの間合いに入ると、その軌跡すら見せぬほどの勢いで坊主Cは
右腕を振り下ろし、その瞬間雑魚の腕は両方とも宙に舞った。

「ふっ、生憎まだ終わっていませんぞ! …続いては炎符の最強強化型!
 その名も 『火鳥の呪符』! カイザーフェニックス!」
腕を飛ばされた雑魚が何が起こったか分からない顔をするも、その言葉通り
坊主Cは今度は左手で懐から呪符を取り出して投げつけると、瞬く間に呪符は
火の鳥を形作って飛び出し、その雑魚を含めた数匹を一緒に焼き尽くした。

「おいおい、マジでどこかの大魔王様じゃねーか…! よくピコ達はこんなとんでも
 ない奴らに勝てたな…! …っと。私もうかうかしてる場合じゃないな…!
 弾幕はパワーだぜッ! ファイナルスパーーーク!!」
二人の暴れ振りに感心していた魔理沙も気を取り直すと、ミニ八卦炉から魔力を
放出。本日始めて “まっとうな使い方” でファイナルスパークを撃ち出した。
撃ち出しに多少の時間がかかったので、勘のいい雑魚敵には避けられたが
それでも数匹の敵を灰をも残さずに消し飛ばした。

「ほう! あのなりは伊達じゃないっちゅうことじゃな! ほんじゃあ儂らも
 行くかいのぉ! 坊主C! 九時の方向へ反射準備じゃ!!」
「承知!! いつでも来られたし!!」
最前線の雑魚敵はあらかた蹴散らしたので、問題は次の後衛の連中だ。
向こう見ずに突っ走ってきた先程までの雑魚とは違い、彼らの中にはなかなか
各種能力の高い者も多く、まともに攻撃をしても避けられてしまうようになったの
だが、そういう状況こそ彼らの真骨頂。削除番長はまた坊主Cに向かって渾身の
メンチビームを放つと、坊主Cはワックスを頭に塗りつけてハゲ・リフレクションで
反射。まさかあの位置から自分たちのところに攻撃は来ないだろうと高をくくって
いたところに迫り来る、“まさかの攻撃”。完全に油断していた面々は自分の
浅はかさを呪う暇もなく、一瞬で塵と消えていった……。

「うっはー! 確かにこりゃ立派な戦術だよ! すっげぇな……!」
見事なコンビネーションに思わず魔理沙は拍手をしたが、同時に…嫌な予感が
頭をよぎった。かつて悪夢世界で経験したことだったが、前半調子よくガンガン
攻めていると、後半がその分…。そして彼女のその予感は当たってしまう。

「ちぃっ! 坊主C! 追撃を頼むぞ! メンチビィィィム!!」
「くっ! …承知! 爆砕符最強型! 一掃のカラミティウォール!!」
確かに自分を含めた三人は善戦していたが、しかし体力が無限にあるというわけ
でもない。個々の力は大したことがなくとも、倒しても倒しても無尽蔵とも思える
勢いで出現してくる雑魚敵達に、いつしか疲労の色が見え始めていた。

「ちぃっ! 人海戦術とは下等なことをしよるが、流石にキツイのう……!」
「普段はここまでになることはないのですが、今日は見慣れぬ魔理沙殿が
 来訪したために、興奮しているようですな……!」
一匹見たら二十はいると思えと言うわけではないが、それにしても雑魚は
次から次へとうじゃうじゃ出現している。三人に代わる代わる襲いかかってくる。
歴戦の強者のミスパの二人も息を荒げるその横で、魔理沙は…何故か一層
ひどく息を切らせて手を地面についていた。

「く、くっそ……! 無茶しすぎた……かな!?」
時々見えるものが二重になったり、あるいは地面が泥沼のように柔らかく
感じられる。明らかに疲れ切っている魔理沙に、番長は苦い顔をして話しかけた。
「んなへろへろになるのも当たり前じゃ…! お前の攻撃は確かに強力じゃが
 効率が悪過ぎる! たとえて言うならHPが100の敵一匹に対して1000の
 威力を食らわせとるようなもんで、連発しとったらへばるに決まっとるわ…!」
「ぐ、ぐぐ…。だけど私の技は、そういう性質だから……」
確かに彼女は 「弾幕はパワーだぜ!」 の銘の元に、マスターでもファイナルでも
どこぞの魔砲少女よろしく全力でぶっ放してきた。勿論それまでの戦いでは敵の
数も限りがあったし、大概スパーク一発を撃ち込めばそれで殲滅できたのだが
ここの敵は数もおそろしく、またかなり俊敏なためスパークを放っても大した数は
討ち取れず。結果として乱発する羽目になり、すぐにガス欠になってしまう。
数多くの戦いを経験してきた彼女にも、こんなものはまるで想定外だった。

「ちっきしょ…! 頭を使え、か…! あいつの言うとおりじゃねぇか…!」
顔を引きつらせて笑う魔理沙の脳裏に浮かぶのは、すました顔のアリス。
どうせ戦い方は人それぞれなんだからと聞く耳を持たなかったが…、後悔。
…まぁ、こんなものが頭に出てくるとはいよいよ駄目かと諦めかけた、が

「…フン。ここまで手こずらせるとは思わんかったのう。じゃが坊主C!
 おかげで儂らの秘蔵っ子の究極技を出すことが出来そうじゃな!?」
「…番長! まさか “アレ” をやろうと考えているのですか!?」
諦めの彼女とは対照的に、ミスパの二人はゆるりと立ち上がった。

「がっはっは! おまけに今日は偶然にもこの魔理沙がおるしのう! 儂の
 代わりにこいつを使えば、多分120%の成果が期待できると思うんじゃが?」
「へ? …い、いやあの、私が一体何を……?」
そもそも今日初めて出会ったのだから知る由もなく、新技といっても当然何の
ことだか分からない魔理沙だったが、削除番長は豪快に笑いながら彼女の
背中を叩き、坊主Cは何事か少し考えた様子を見せて、口を開いた。
「…そうですね、番長。しかしそれだとぶっつけ本番になりますが……」
「大体戦術なんぞそんなもんじゃろうが! …それじゃあ坊主C! 儂が奴らを
 足止めしとくから、お前はそいつに何をすべきか教えちゃれ! ええな!?」
「…分かりました! しばしの辛抱を頼みましたぞ、番長!」
「だ、だから! 今から何するんだよー!?」
本人の意志に関係なく、勝手に計画に組み込まれてうろたえる魔理沙をよそに
削除番長は早速雑魚達の足止めにかかり、坊主Cは彼女の元に近づいてきた。

「さて、それでは説明といきます! …とはいっても魔理沙殿にやっていただく
 ことは至極簡単! 先程番長が私にメンチビームを放ったのと同じ要領で
 今度はあなたのファイナルスパークを打ち込んでいただければよいのです!」
「な、何だって!? …でもちょっと待ってくれよ! それじゃ何の解決にも…!」
坊主Cから計画を聞かされて思わず魔理沙は反論の意を見せたが、それも
無理なからぬこと。彼の考えていることは、さっき番長のメンチビームをハゲ反射
させたのを今度はファイナルスパークでやろうとしていると予測できたが、しかし
ただ方向を変えただけでは状況の改善には繋がらない。いたずらに体力を消耗
させるだけとしか思えないが、しかし坊主Cは自信ありげに笑って見せた。

「ご安心ください。これでも我らはミステリアスパートナーに選ばれた身ですから
 破れかぶれなどというものは一切ありません! 詳しく話している時間は
 ございませんので、ここは私を信じていただきたい!」
「…そうだな。どうせやらなきゃ潰されるんだ。だったら乗っかってみるか!」
最初は動揺していた彼女もようやく決心がついたようで、ミニ八卦炉に魔力を
充填すると坊主Cの前に立った。

「…馬鹿なこと言うみたいだけど、失敗しても恨みっこなしだぜ!?」
「委細承知! 余計なことを考えずに、全力で打ち込んでくるのですぞ!!」
「分かった! …それじゃ、行くぜ! 吉と出るか凶と出るか! これが私の全力の
 ファイナルスパークだッ!!」
ぐっと身構える坊主C。魔理沙の八卦炉の魔力もいよいよ最高までたまったようで
ばっと坊主Cに八卦炉を向けると次の瞬間、まさしく光の海とでも形容出来そうな
勢いと大きさでファイナルスパークが撃ち出された。

「ふむ…! これほどのものを撃ち出せるとは、流石にピコ麻呂様が仲間と認めた
 だけのことはありますが…、魔理沙殿、番長! お伏せなさい!!」
魔理沙の全力のスパークに最初感心していた坊主Cだったが、すぐに彼女と番長に
伏せるよう指示、二人がその言葉通りに動くのを確認すると、坊主Cは懐から……
今度は先程とは違うワックスを取り出すと、瞬く間に頭に塗りおえた。
「知識を、技術を得るときは貪欲であれ! ピコ麻呂様からお仲間の遊戯という方の
 ことを伺ったときに閃いた新技! その名もハゲ・ミラーフォース!!」

…そして坊主Cの頭とスパークが接触した瞬間、スパークは先程魔理沙が予想した
ような一直線に方向を変えては反射せず、枝分かれ。上に下に左に右に縦横無尽に
拡散し、その様はあたかも流星群のごとし。勿論威力も言わずもがなで、辺りを
取り囲んでいた雑魚敵達にことごとくが命中し、各所で殲滅の大爆発が起こった…。


「ふぅ。…なんとか、上手くいったようですな……」
「うっわー…。…今まで沢山戦ってきたけど、こんなの初めてだぜ……」
「見事じゃ!! 成功も成功、ここまで上手くいくとはのう!」
辺りの敵が残らず消し飛ぶか消し炭にまでなると、魔理沙と番長は坊主Cの
元へと走り寄ってきた。

「魔理沙殿、感謝しますぞ! こうまで出来たのも魔理沙殿のおかげですからな!」
「え? あ、あはは…。でも、自分でも信じられないんだよな……」
一発大逆転の勝利に興奮したか、柄にもなく目を輝かせた坊主Cに魔理沙が
やや戸惑ったような風を見せると、後ろから番長が優しく肩を叩いてきた。
「…お前の技はさっきも言ったとおりで、弱っちい敵一匹に不必要なくらい強力な
 一撃を叩き込む “オーバーキル” のきらいがあったんじゃが、今の坊主Cの拡散
 反射…奴はハゲ・ミラーフォースなどと呼んどっとが、とにかくそれのおかげで
 ようやくバランスが良くなったんじゃ。1000の威力をHP100の敵一匹に打ち込む
 なんちゅうんじゃなく、1000の威力をHP100の敵10匹にちゅう具合でな!
 しかし今のを見とると、儂と坊主Cが組むよりお前が組んだ方が技の相性はいい
 かもしれんのう! わっはっは!!」
「そ、それって喜んでいいのか? うーん……」
興奮した坊主Cと豪快に笑う削除番長、そして照れた魔理沙と皆様子は様々だったが
とにかく共通して有していた勝利の喜びを分かち合っていた…。

………………………………………………

「さて、これで全部ですかな? お取り忘れなどは……」
「ああ、ないぜ! これで漏れなくコンプリートだぜ!」
…それからしばらく後、魔理沙はやはりお約束で坊主Cから本を受け取っていた。

「しかし本当に金はいらないのか? 結局1円も使ってないんだが……」
確かに言われてみればその通りで、手持ち及びアリスから金をいくらか貸してもらって
いたにも関わらず、ピラミッドから今に至るまで結局全く使っていない。気前がいいと
言えばそれまでだが、戸惑う彼女に二人は笑いながら声をかけてきた。

「ええ、本当に不要なのですよ。そもそも金銭があっても使い道がないです故に」
「お前の故郷はどうだか知らんが、少なくともこのニコニコ世界では欲しいもんは
 混沌から生み出されてくるんじゃい。じゃから坊主Cの言うように使い道が 
 ないんじゃ。まぁ出てこんのはパンなんかの食い物ぐらいのもんじゃがのう!」
「あ。確かにそう言われてみれば、その通りだよな……」
そう言う魔理沙の脳裏に蘇ってくるのは、今までの旅の行程。確かに売店はあっても
パンや特殊な装備品以外は殆ど売られていなかったし、そのパンにしても如何なる
原理か、どの場所にいてもピコ麻呂が飛んできて買っていたので、自分もお金自体に
触れる機会があまりなかった。…となれば、彼らもまた然りということか。
いずれにしても、これで揃った。彼女も満足げに笑いながらふわりと空に浮かんだ。

「それじゃあ番長に坊主C、ありがとな! 今度また一緒に大暴れしような!」
「おうよ! 次までにはへばらんように体力上げとけよ!」
「それでは魔理沙殿、お気をつけて! ピコ麻呂様にもよろしく願いますよ!」
恒例のお別れの挨拶を終え、魔理沙はいよいよ我が家へと戻っていった…。


-幻想郷 霧雨邸-

「おかえり、魔理沙。ちゃんと集まったかしら?」
「おうよ! ちゃーんとこの通り、きっちり耳そろえてきたぜ!」
優しく微笑みながら迎えるアリスに、魔理沙はにっと笑って本の詰まった袋を
取り出すと、早速机の上に中身を広げた。

「さて、後はこいつらをどうやってパチュリーんとこまで持って行くかだが……」
「…………………………………」
…目の前に置かれた本を前に、魔理沙は思わずため息をついた。塵も積もれば
何とやらと言うが、ここにあるのはほんのごく一部にしか過ぎず、邸内にあるものも
含めると相当な量になる。しかも霧雨邸から紅魔館までは結構な距離があるので
分担して持って行くにしてもかなり負担になることが予想され…、…額に指を当てて
うなる魔理沙だったが、アリスがそんな彼女の肩を優しく叩いた。
「ふふふ、大丈夫大丈夫。どうせこんなことになるだろうとは思ってたから……ね」
「? どういうことだ、アリス?」
「それはね。…こういうことっ!」
突然笑い出したアリスに魔理沙は怪訝そうな表情を浮かべるが、彼女はやはり
笑ったまま書庫への扉を開け…、その開けた扉の先に思いもよらぬ光景があった。

「フン。我らミスパが13人、全員揃うなどいつ以来だろうな?」
<こうなった経緯はどうあれ、実に久方ぶりなり!>
そこには何と、DIOとオワタ王をはじめとしてミスパ(+α)が全員集結していた。


「あ…! な、何で皆…? アリス、これは一体…!?」
あっけにとられる魔理沙に、アリスはくすくすと笑いながら答えた。
「ふふふ。流石にこの量をあなた一人で運ぶのは至難の業…体壊しちゃうでしょ?
 だからあなたが飛び回っている間に、DIOとオワタ王に頼んで集めてもらったの」
「そ、そうだったのか…? …今日初対面の奴もいたのに、みんな…?」
思わぬ事態に感激する魔理沙が辺りを見回すと、その視線の先にいるミスパ達…
とりわけ招集を担当したというDIOとオワタ王が早速本を担ぎ始めながら
にやりにやりと笑顔を見せていた。
「フン。とは言ってもお前が彼奴らに敵意を抱かれていたら、いくら我らが招集を
 かけたところで集まりはしなかったろうがな」
<汝は自分で自分のことをどう思っているのかは知らぬが、しかし少なくとも我ら
  13人は認めている。故にそれに関しては誇ってもよいと言えるなり>
正確には13人全員かどうかは微妙なところだったが、しかし大半はまさしく
オワタ王の言うとおりに優しい笑みを彼女に向かって浮かべていた。

「…なぁ、アリス。何でこいつらってこんないい奴らばかりなんだ?」
「ふふふっ、さぁね? …それじゃみんな、私たちが先導するから
 後から着いてきてね!」
冷めぬ感激に魔理沙が涙まで浮かべると、アリスはくすくすと笑いながら
腕を上げ、紅魔館に向かって行進を始めた…。

……………………………………………………

「ねぇDIO、私もっと持てるわよ? あなたにそんなに持たせるなんて…」
「フン。人形だろうと人間だろうととにかく女に苦労をさせるなど、このDIOの
 誇りが許さぬわ。というわけで、何ならザ・ワールドの肩にでも乗るか?」
「あ、そ、そこまでしてくれなくてもいいわぁ…。でも、ありがと……」
本を担ぎながらフンとDIOが鼻を鳴らすと、水銀燈は顔を赤らめ

「うおおお!! 勉強したい、勉強したいでござるぅ! オワタ王! こんな
 肉体労働をする時間があるなら勉強に充てたいんだッ! だから……」
<待て待てサトシ。その心は立派だが勉強は頭だけではない、体も動かさねば
 効率が悪くなる。というわけでしっかりと働くがよい!>
…どこか目つきが吹き飛んだ闇サトシと、ぽんぽんと彼の肩を叩くオワタ王。
ちなみに闇サトシであるが、元々悪知恵というか頭の回転は速かったらしく
あの後ちょっとオワタ王がつついてみたら、みるみるうちに開花した。しかし…

「さぁ、今度は古城で古書をゲットだぜ! うふへははははは……!!」
<さ、サトシよ! 汝は少し落ち着くべきであると……>
…勉強熱心?になったのはいいことなのだが、どうもこの世界の住人の特色と
言うべきか、少し行き過ぎているような気配が見えていた……。

「けっ。か、勘違いすんなようどんげ! 今のこれはお前が頼んだから手伝って
 やっているだけで、そもそも俺の本意じゃ……」
「ふふふ。白菜、怒っちゃだーめ! …それよりあっちの古城の二人じゃないけど
 私だってもっと持てるから、もっと本ちょうだいよ白菜?」
ピラミッドの二人に続くは、今度は学校エリアの白菜とうどんげ。きゃあきゃあ騒ぐ
うどんげの手元には確かにほんの数冊の本しかなかったが、白菜はあらぬ方向に
目を向けながら、顔を赤くしてどこかどぎまぎした口調で返事をした。
「ば、馬鹿いえ! …目が治ったばかりのお前が、本の重さでふらついて何かに
 つまづいてこけたりしたら、お前の運んでる本だけじゃなくてお前も運ばなきゃ
 いけねぇから、俺の仕事が増えるだろうが! …唯でさえ慣れねぇ肉労なのに
 これ以上負担が増えちゃたまらねぇんだよ! だ、だから大人しく俺が渡した分
 だけ運んでりゃ…い、いいんだよ!」
「わぁ! ふふふ…! 白菜、だーい好き!!」
素直に言えばいいのに、DIOと違って言えずに照れまくる白菜。そんな彼に
うどんげはますますにこやかに笑うと、すりすりと体を寄せ……

「ヌーン。こんなことするよりもっと女の子と遊んでいたかった……」
「ククッ! せっかくプレイに移行しようと思ってたのに……!」
ピヨシートと病魔は……説明は割愛させていただく。

「……………………………」
…市街地を訪れたときに出くわし、また実際に参加?した爆走レースを彼女は
最後まで確認は出来なかったものの、しかしあの後恐ろしいことに捕獲に成功
したようで、水色の傍らにはあのときの馬がいた。その背中には本がくくりつけ
られており、勿論水色自身も…流石に化け物じみた身体能力を発揮しただけ
あって、重い本を担いでいるのにハッスル気味に駆け足していた。

「フフフ! この私がここまでしてやるのだ! だから然るべき時にはちゃんと
 協力してもらうぞ霧雨魔理沙!」
その一方では、彼らしいと言えばらしいがやはり懲りない外山。尤も対価などを
求めた日には、魔理沙のみならず他のミスパからも袋だたきにされるだろうが…。

「…………………………………」
「…………………………………」
エイプマンとドアラは二人とも無言だったが、流石にゴリラの強靱な腕力と
コアラのたくましき…?とにかく腕力でDIO並みに本を積んでは運んでいる。
ドアラは本を運びつつも体術をまた披露しようとしていたようだが、それは
エイプマンの無言の忠告によってなされなかったようだ。

「やれやれ。あれだけ暴れていきなり招集かけられるとは思わんかったの」
「まぁまぁ番長。これも基礎体力の訓練の一環と思えばよいのでは?」
言葉通りに少し疲れたようで番長は肩や首を回したが、確かにその通りで、彼ら
二人は魔理沙が立ち寄った最後のエリアで、且つ一番大暴れをしてもいるのだ。
激戦を終えてやれやれと腰を下ろした途端に、休んでいる時間もなく招集を
かけられればかなり肉体的にきつくもあるだろうが、坊主Cは笑いながら前向きな
姿勢を見せて、疲れながらも足取り良く歩いていた。


「サー○エさーん、サザ●さん! ☆ザエさーんはゆっかいだなー!」
…そして最後に、まぁ実際彼らの行進を端から見ればまさしくこんな感じに
見えるだろう。先頭を行くアリスと魔理沙は、いつしか某日曜6時半のアニメの
EDテーマを大声で歌いながら飛んでいた……。

…………………………………………………


「3、2…、1と。確かに全部あるわ。本当にご苦労様、魔理沙!」
「おう! だが礼は私だけじゃなくみんなに言ってくれよ!!」
それからしばらく後、ミスパを引き連れて紅魔館の図書館に着いた魔理沙は
パチュリーから完了のお墨付きをもらって嬉しそうに手を叩いた。

「それにしてもまぁ、積もりも積もりたりこれだけの数、か…。私が言うのも
 何だけど、よくこれだけの数を耳を揃えて持ってこられたわね?」
「あ、当たり前だろ? 借りたモンはきっちり返すのは当然のことなんだぜ?
 …とは言ってもお前の言うとおり、大変な道のりではあったけどな…。まぁ
 これで、この図書館に本を揃えた奴…誰だかは知らないけど、とにかくその
 苦労というか、ちょっぴりは理解できたよ…。そいつが苦労して集めた本を
 今まで安易にかっぱらっていったりして…、本当、顔向けできないぜ…」
収集の意味においては、彼女はだいぶ恵まれていたと言える。何せあらゆる
事象やモノが混沌と入り交じるニコニコエリアがあり、実際そこで望んだ全ての
本を揃えることが出来たのだから。…その魔理沙でさえところどころに怪我を
したり汚れたりしたりと収集の旅は大変なものであったので、彼女より遙かに
以前、この館に “一から本を収集した人物” の苦労は、当然ながら彼女の比
ではなかっただろう。…そんな先人の労苦を噛みしめながら自分の犯してきた
愚行に失笑すると、パチュリーも嬉しそうに笑いながら口を開いた。

「…ふふふ。そんなことを言うなんて、本当にあなたは変わったわ。以前は
 あなたをいつ魔術の実験台にしようかと手ぐすね引いてたけど、それももう
 ここまで改心してるならやめにしないとね。ふふ……」
「い、命拾いしたみたいだな。ハハ、ハハハ……」
冗談か本気か…多分本気だろう、くすくすと笑うパチュリーに魔理沙は顔を
やや青くして引きつった笑みを浮かべると、その魔理沙にパチュリーが近づいて
今度はアリスも近くに引き寄せて小声で話し始めた。

「さて、これは終わったからいいけれど…、魔理沙、アリス。せっかく皆さんが
 手伝ってくださったからおもてなしをしたいと思ってさっき咲夜とレミリアに
 聞いたんだけど、私と同じで歓迎というかもてなしをしたいのはやまやまだけど
 料理は出来てもこの人数分のお酒を出すことは出来ないってことなのよ。多分
 お酒を飲む人も結構多いんでしょうけど、充分な量がないし……、かといって
 このまま解散っていうのも悪いし、どうしましょう?」
「…確かに、そうね。でもどうしましょう? ここから居酒屋に移動ってのも
 結構距離があるし、またぞろぞろご足労願うのも……」
パチュリーの言うことは尤もではあったけれど、とは言ってもこの大所帯ではと
アリスも唸りだしたが、しかし魔理沙はそんな二人に笑顔を投げかけた。

「へへっ。大丈夫大丈夫…! …おーい、ミスパのみんなよ! 今日は色々協力
 してくれてありがとうな! だからお礼と言っちゃあ何だが、酒を色々用意して
 おいたぜ! だから今夜はぱーっと楽しんでいってくれ!」
「おお!!」
…彼らも口には出さねど、やはり心のどこかでは期待していたのだろう。魔理沙の
「お礼」の言葉を聞くや否や、目をきらきらと光らせ始めた。

「ま、魔理沙? どういうこと…?」
一体いつの間にそんなものをと、アリスとパチュリーが驚いた様子で尋ねると
対する魔理沙は、ドラえもんの某秘密道具よろしく小さな袋から酒瓶やつまみを
いくつも取り出しながらニヤリと笑って返答した。
「へへっ。本来はお前達と一緒に宴会するつもりで、6エリア回ってるときに本を
 集めるついでに買っておいたんだけどな。まさかこうなるとは思ってなかったぜ。
 …で、アリス。一応言っておくけど、お前に貸してもらった金はこいつにつぎこんじ
 まったから、返すにしても少し時間がかかるけど…いいよな?」
…前述の通り、ニコニコ6エリア収集時には全く金を使わなかったことがここで
幸いしたようで、アリスも目を閉じるとやれやれと、しかし嬉しそうに首を振った。

「…フフフ。今日はこれから楽しい宴会が始まりそうだから、嬉しくて嬉しくて……
 …誰にいくら貸していたか、すっかり忘れちゃったわ…」
「アリス、お前…、ははっ! それじゃあ…準備に取りかかるとするか! まず
 私は調理の手伝いをしてくるから、アリスは会場の準備を。パチュリーは咲夜や
 レミリア達に知らせでも出してきてくれ!」
どこかの危ない金貸しのような台詞を言うアリスに、魔理沙はぱっと顔を輝かせると
すぐにそれぞれ指示を出して、館中に散っていき……


その夜、紅魔館では今までにないほどの盛大な宴会が開かれたという。


オワタ
斜刺
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2008年12月15日(月) 18時08分40秒 公開
この作品の著作権は斜刺さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
さーて。シリーズがようやく終わりました。この「再収集」は役付けとしてはおまけの
ようなものでしたが、読んでいただけたのなら幸いです。

いつぞやの悪夢よろしくニコニコエリアをガチバトルにしたら、思いの外長くなって…
なので前回は区切ったわけです。ちなみに坊主Cの技は分かる人には分かると思い
ますが、バーン様のアレです。同じ手刀技を持っていたので使ってみました。
(勿論ハゲ反射は違いますが)

今のところこのミスパの宴会は書く予定はないです。まぁ時間が出来たらやるかも
しれませんが……。とにかくここまでお付き合いいただき、感謝です。

この作品の感想です。
坊主C、いつの間に魔王並みの実力を身に付けたんだw
やはりニコニコのカオス(混沌)は恐ろしい…ww
しかし、斜刺さんの書く魔理沙…とっても良い子になりましたね!
まぁ、最初の救済シリーズから思い返すと、
その姿が少々痛々しくも感じたり…

やっぱり、少しアリスが負担を取り除いたとは言え、
悔やんでも悔やみきれない想いがたくさんあったはずだろうし…
それを想うと、最初の頃から比べて…非常に成長できたものですね。

何は兎も角…斜刺さん家の魔理沙、お疲れ様。
そして魔理沙の小さな冒険を綴りきった斜刺さん、非常にお疲れ様でした!
50 遊星γ ■2008-12-25 23:20:10 121.110.65.13
ケイオス言うな番長www某タマネギ頭思い出したじゃないかwww
いやしかし、無事に終わってよかった!
兎も角お疲れ様です。
50 名無しと呼んでください ■2008-12-17 17:24:04 221.36.140.3
今のはメラゾーマではない、メラだ・・・

冗談はさておき、完結お疲れ様です!
しかし坊主C、何やってんだかwww
50 素人A ■2008-12-17 00:05:42 123.222.30.254
合計 150
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