本来なら前回に付けるべきだったけど) キュウビ戦のBGM:sm7027995 とてもいい曲だから、聞きながら読むと楽しくなるかも…しれない。 「うぉおおおおおおらぁぁぁッ!!」  天叢雲剣を手にした番長は、早速獲物を…化けツヅラオを一体視界に収めると 飛びかかり、右に左に剣を振るった。 もちろん狙われた化けツヅラオも、そこは手練れの妖怪であるだけに大人しく 斬られるはずもなく。番長の攻撃を全く的確に七支刀で受け止め、戦況は互角で あるかのように見えたが…… 「言ったはずじゃあ! そんなナマクラ刀とワシの剣は、天と地の差があるとな!!」  番長の振るう豪剣は、受け止めたとしても無傷では済まない。二度、三度 剣を受け止めるうちに化けツヅラオの七支刀には亀裂が入り、破片が飛び散り… 「しゃああああッ!! これで仕舞いじゃああああッッッ!!」 ついには、真っ二つに折れた。折れてそのまま兜割りと頭から叩き斬られ…… そのままぐらりと倒れ込んで二人目がチリと消えたが、勢いに乗った番長はそれで 終わるはずもない。すぐさま三人目を視界に捉えた! 「…次はお前じゃ。大人しくしとれば痛い目見ずに終わるぞッ!!」  先ほどは何度も叩き込んでいたが、今度は一発で決めるつもりか。剣を振り上げ そのまま高くまで飛び上がり、某剣客の●槌閃のような感じで急降下して剣を振り下ろす。 もはや防御もクソもない、文字通りの一刀両断になるか。そう思われたが 「…………!! な、何じゃと!?」  だが何と、そこには化けツヅラオが二人増えて、三人…。七支刀三本を以て 番長の天叢雲剣の衝撃を完全に受け止め、そのまま七支刀を跳ね上げて番長を 弾き飛ばしたのだ。                                 ナメ 「ククククカカカカ……!! 我ヲ…、コノキュウビヲ無礼ルナ!!  単体デ通ジヌト分カレバ、ソレナリノ闘イ方モアルノダ!」 「くっ……!!」  このままたたみ込めるかとも思いきや、流石にキュウビも一筋縄でいくはずも なく…。三人は他のツヅラオ達と合流して再び合体、キュウビの姿になった。 「元に戻りよったか…。今度は一体何を仕掛けて……、!!」  元の姿に戻ったということで、何か新手の攻撃を仕掛けてくるのか。坊主達が警戒の 面持ちでいると、その予感は当たったようで……。 元に戻ったキュウビは身をかがめて全身に力をためると、そのまま何と。全身に 宿らせていた妖気を、煙のように勢いよく吹き出してきたのだ。 瞬く間に辺りに広がった妖気は、さながら赤黒い…煙幕! 「この、妖気…! 番長、防御の符です! これで妖気から身を!!」  以前にも味わったことのあるキュウビの妖気は、人間にとってみれば毒煙のようなもの。 その妖気が煙のように立ちこめている場所では、ただいるだけでも甚大な被害を被る。 坊主Cは八咫鏡を、削除番長は坊主Cの防御の符を展開してどうにか卒倒は避ける ことができた。しかし……… 「こいつはまるで、煙幕…! 一寸先も見えないとはまさにこのこと……」 「ちぃっ。色も色でこんな赤黒くては、見とるだけで気分が悪くなるわい……」  辺りに立ちこめる妖気は、彼らが二人が言うようにかなり濃密で全く視界が効かない。 これでは下手に動くこともできない、攻撃するなどもってのほか……。 ならばキュウビはこの隙に回復でもしているのか。番長が舌打ちした、しかしその時。 「ッ!! 番長! お伏せなさい!!」 「何ぃ!? …おぉっ!!」  坊主Cの大声に、番長が反射的に身を伏せると…、その瞬間。自分が今まで立って いた辺りを、何か…白いものが凄まじい勢いで横なぎに飛んできた。 もしあのまま立っていたら、今頃は今のものに吹き飛ばされていただろう。番長は 安心したように息を吐き出すと、そのまますっと立ち上がった。 「今のは、まさか……野郎か!?」 「おそらく、尾による攻撃でしょう。この煙幕の向こうからの……!」 「あの畜生! 正攻法が通じんから闇討ちか!? 出てこんかい!」  流石に硬派であるだけに、闇討ちは許せないようで番長は血管を浮かべて 大声を張り上げたが、当然それでキュウビが姿を現すはずもない。 …妖気の煙幕に紛れた、全方位攻撃。キュウビの新たな攻撃形態に坊主Cと 番長がごくりと息を呑むと、煙幕の向こうから件の不気味な高笑いが聞こえてきた。 「クカカカカカ……! 卑劣ダロウガ闇討チダロウガ、勝テバヨイ…。  ドンナ方法ダロウト、勝利スル! コノ執念コソ、妖魔ヲ今日ノ妖魔セシメタモノ……。  貴様ラガ何ヲホザコウト、所詮負ケ犬ノ遠吠エ! 大人シク蜂ノ巣ニナレ!!」  自らの勝利絶対主義について語るキュウビに、かつては同じようなことを口にし 実行していたと二人は苦い顔を作り…、しかし今度はそれを撃退せねばならないと 二人は嫌な汗を浮かべて身構えた。 「!! あぶなーいッ! 上から来るッ!!」 「うおッ! ここにDIOはいませんよ!」  音もなく忍び寄り、そして繰り出される一撃。攻撃はキュウビの巨大な尾であるにも 関わらず、それが接近してくる気配を攻撃の瞬間までまるで感じさせない。  気がついたらふっと目の前に現れ、それをすんでの所で避ける。二人が渡るのはいつ 途切れるともしれない、実にか細い道で…… 「かぁッ! …おい、坊主! お前の鏡ではね返せんのか!?」 「…心苦しいですが、八咫鏡ではね返すには、攻撃を真正面から受け止める必要が  あります…。しかし今のこの目隠しの全方位攻撃攻撃では、反応がどうしても一瞬  間に合わない……!!」  八咫鏡の力を以てすれば、キュウビの攻撃といえど弾き返すことは出来るのだろう。 だが、それもはね返すにはしっかりと受け止めなければならない。 煙幕を張って、そこから繰り出す全方位の攻撃…。並みの雑魚の攻撃ならば対応 できようものだが、キュウビのそれは威力、速度共に並外れで。到底華麗に 切り抜けられるものではなかった。 「…あの腐れ狐めが、やれやれじゃのう! このままじゃじり貧じゃあ!」  坊主も鏡を構え、番長も攻撃をかわしつつ剣を振るってはみるが、一瞬で現れ 一瞬で消えるキュウビの尾には有効打を与えることが出来ず。加えていつどこから 来るかも知れない攻撃に精神を集中させ続けているため、疲労の色が見え始めて いたが…、そんな中で坊主Cは再び考えに頭を巡らせていた。 “この妖気の煙幕、私たちの目は当然ながら全く利かないが……  しかしこれを作ったキュウビならば、これを赤外線暗視鏡のように見通し、我らの  姿を捉えているやもしれない……。ならば!” 「…そうですな。確かにこのまま何もしなければ、私たちは精神をすり減らし、疲弊  しきったところをやられるでしょう…。故に! 動くと致します!!」 「おおっ! なんぞ有効策でもあるのか!?」 「…完全とは言えませんが、この状況では一番これが有効化と。  新型呪符 “不可視の急襲” 印美辞古符!!」  坊主Cが新たな呪符を展開すると、そこには…… 何と坊主Cと番長の姿が消え、代わりに坊主C達の姿をしたものが現れたのだ。 自分たちの姿が完全に透明になったのを確認すると、二人は移動を始めた。 “…この符は見ての通りの、囮を作ってその隙に背後から襲いかかるもの……。  キュウビくこの妖気の中で目が利いたとして、囮に食いついたその時が勝負!  一気にたたみかけてやるとしよう……”  目の前に現れた囮、坊主Cらの偽物は成る程確かに二人と生き写しで、しかも 召喚されたその辺りをうろうろと本物らしく動き回っている。…この偽物を攻撃 している隙に急襲するべく、坊主Cらはその近くで待ちかまえていたが…… 「…クカカカカ! 今度コソハソノ心臓ヲ、ブチ抜イテクレルワッ!!」 「!!? 何!?」  何と、それにもかかわらず。坊主Cが自信を持って展開した呪符にもかかわらず キュウビの攻撃は偽物ではなく、本体の…不可視であるはずの二人に向けられたのだ。 無論二人とも警戒はしていたので直撃はせず、すんでのところで避けることは出来た のだが…、やはり策が通じなかったというその衝撃は大きかった。 「この策が通じなんだ、ちゅうことは……」 「……ええ。私の完全な読み違いでした。…奴は、こうなると……」 “こと視覚的効果に関しては、この呪符はまさに完全。あらゆる光学霊学的効果に  照らしても、全く浮き出ることはなかった……。  しかし今回、キュウビは全くこれをものともせずに私たちに攻撃を加えてきた。  ……と、いうことは……!?”  …どうやら、事のカラクリが読めてきたのだろう。はっとなった表情をする坊主Cの その近くでは…… “…霊的反応カラ、外レタ…。奴ラメ、流石ニ逃ゲ足ハ早イモノダ…!”  坊主Cの予想通り、キュウビが彼らの位置を探るのに使っていたのは視覚ではなく、 実際に読み取っていたのは、坊主C達や神器から発せられる霊力…。それをサーモ グラフィーのように色分けして位置を掴み、正確に攻撃を仕掛けていたのである。 ここから鑑みれば、先ほどの呪符も…。いくら体を透明にしようと、結局のところ隠せて いたのは姿のみで、霊力の不可視化に関しては何ら力を使ってはいなかった。 ならばキュウビにとってみれば変化が生じたわけでもないので、変わらず正確な攻撃を 加えられたことも道理というわけで…… “動ケナイ、動ケナイ…。奴ラハコノ妖気ノ中デハ、我ノ動向ヲ察知スルコトハモトヨリ  満足ニ動キ回ルコトスラ出来ヌノダカラナ!  何トカチョコマカト逃ゲ回ッテハイルガ、ソレモモウ終ワリ……。今度ハ集中砲火ヲ  カケテ、確実ニ串刺シニシテヤルワ!! クカカカカ!!”  どうやらその言動から鑑みるに、キュウビは勝負を決めるつもりのようで……。 その尾を大きく広げると、感知した坊主Cらの霊的反応に向けてそろそろと進め…包囲。 もはやどこにも逃げ場はない、あとは自分が攻撃を仕掛けるだけ……。 “今度ハ、外サヌ…。ドコヘドウ逃ゲヨウトモ、必ズ撃チ抜ク!!”  今も二つの霊的反応はあちらこちらに小刻みに動いているが、それも問題ではない。 キュウビは目を閉じ息を止めて動きに集中、反応の中心に照準を移し…… そして目をかっと開き、一閃! 手応えは…… “…カカッ! カカカッ!! ヤッタゾ! 今度コソハ貫イタゾ!!  所詮貴様ラナド、コノ我ノ敵デハナカッタノダ!!”  …確かに感じた、手応え。霊力を有する者を仕留めたときに感じる、特有の霊力の 揺れが自分の尾に伝わってきた。狙い通りに命中したことで、柄にもなくキュウビは 喜んだ様子を見せた。 「コレデ、終ワリダ! 奴ノ除外ガ終ワッタ今、モハヤ我ニタテツケル邪魔者ハイナク  ナッタ! コレデ再ビ、アノ白菜ニ苦痛ヲ与エル拷問ヲ再開デキルノダ! 今度ハ  一層ジックリ、ユックリト苦シメテヤロウ…!」  邪魔者を取り除き、そして今後の展開にキュウビは目を細めてほくそ笑んだが さてそれはともかく、死体の確認はしなければならない。キュウビが悠然とその 尾を自分の元へと引き寄せた、しかしその時だった……。 「取らぬ狸の皮算用…、ならぬ、狐の皮算用ですかな?」 「まったく、あの兎の嬢ちゃんがはしゃいどる姿はほんに可愛いもんじゃが  お前が馬鹿みたいにはしゃいどる姿を見とると、哀れになってくるわい…!」 「ナ、ナ、ナ…、ニィィィィィ!!?」  これは一体、どういう事だ。まさか自分は今幻術にかかっているのか。 そんなはずがない。だがどういう事だ。 …何故目の前に、今さっきその体を貫いたはずの坊主Cと削除番長が、全く何も 傷のない平気な様子で姿を現したのか…!? 「馬鹿ナ!? 馬鹿ナ馬鹿ナ、馬鹿ナァァッッ!!? 何故ダ!?  ソンナハズハナイ!! 我ハ、確カニ……!!」  狙いも正確だった。手応えも感じた。それなのにどういうわけでとキュウビが 柄にもなく混乱した様子を見せると、対する二人は…、実に得意そうににやりと 笑い…、キュウビを指さして声高々に話し出した。 「お忘れかな? …この場において、霊力を発することが出来るものは神器だけ  じゃあない…。私がこの闘いに持ち込んだ道具は……」 「まぁ、神器の印象が強すぎて忘れとったかもしれんがのう……? そもそも坊主が  最初に言った台詞と、こいつは逆じゃぞ? つまり……」 「!!」   坊主Cらの言葉を聞いてはっとなったキュウビの脳裏に蘇るのは、戦闘開始直後の 状況。まだ神器を出していなかったあの時、坊主が攻撃手段に用いていたのは…? 「神器には一時的な封印をしましたから、今時点で感じられる最も強い霊力は、それ…。  …まったく、永琳殿には頭が上がりませんよ。私だけの霊力でしたらいくら集めても  力が足りず、あなたを謀ることは叶わなかったでしょうが…、彼女の霊薬のおかげで  霊力が上がりました。あなたに疑いを抱かせずに釣り上げることができるほどに、ね」 息をするのも忘れて自らがその尾で突き刺しているものを確認すると、それは… 自らが危惧していた、坊主Cの言ったとおりの……、呪符入りの袋! しかも現時点で、強烈な光を発しており…… 「もうすでにそれは術式解放をした、後は射出するだけの状態にしてありました。  それに攻撃を加えたということは、火薬庫に火矢を撃ち込むのと同じ事で……」 「…まぁ、どうなるかは言わんでも分かることじゃなぁ? がっはっは!!」 「オ、オ、オノレエエエエエエエエエエエッッ!!」    特大級の危険を急いで尾から引き抜こうとしたキュウビだったが、時既に遅し。 キュウビの攻撃によって暴発した呪符は炎に雷に閃光に猛り狂い、刺さっている 尾を伝ってキュウビの体へと走っていき。キュウビはその凄まじい衝撃に、今度は “フリ”ではなく心底から身悶えする羽目になった……。 「グギャアアアアアァァァアアアアアア!!??」  並みの妖怪ならば苦しみを通り越し、魂までも一瞬で蒸発せしめたその衝撃は 如何に妖魔王といえども耐えられるものではない。このままでは体が焼け落ちると 判断し、キュウビは慌ててその体を化けツヅラオに分裂させたが…… 「よぅし! 分裂したぞ! まとめて輪切りにぶった切っちゃるか!」 「ならば大根春菊、熱燗とあわせて狐鍋と参るとしましょうッ!」  二人は、まさにそれを狙っていたわけで。してやったりというこの上なく嬉しそうな 笑みを浮かべると、息を一吸い。それぞれが化けツヅラオの姿を補足するとばっと 二手に分かれて飛び出していった。 「のろい! のろいのろいのろい!! ワシを嘗めるのも大概にせいやッ!!」  先ほどとは、形勢逆転。今や番長が振るう剣を、化けツヅラオ達が何とか回避 しているといった状況で。しかもその回避行動には、かつての華麗さはもはや 見る影もなく、息も絶え絶えに何とかまとわりついているというようなもので…… 「妖魔王ともあろうものが、みっともないのう! 大人しく往生せぇ!!」  見るに呆れたという表情で、番長は剣を勢いよく振り下ろすが…、その瞬間。 それを狙っていたのだろう。先ほどのように化けツヅラオが三体密集し、それぞれが 七支刀を頭上に掲げて防御態勢を取った。 先の状況の再来かとも思われたが、しかし番長はニヤリと笑ってまた天叢雲剣を 頭上に振り上げ、構え直した。 「…この剣は、天上界の “武器” の神器なんじゃ。この意味が分かるか?」 「…………!!?」 「はっ、鈍いやつじゃな! 天上界の武器っちゅうたら、これしかないじゃろうが!  ようやく使えるようになったから、思う存分味わってくれ!!」  番長の言葉の意味するところが最初理解できないというような様子の化けツヅラオ達 だったが、それも束の間…。天叢雲剣に、まばゆいばかりの稲光が宿り始めたのを 目にして、化けツヅラオ達は仮面の奥で息を呑んだ。 先ほどの坊主Cの雷撃符のそれよりも遙かに大きく、遙かに強く。まるで雷そのものを 手にしているかのような削除番長は、雷を高々と振り上げた…。 「防御なんぞ、いくらしたって無駄無駄無駄じゃ! 死にさらせぇッ!!」 「!!!」  …防御するために密集していたのが、またその防御手段が金属・七支刀であったのが 仇となり。振り下ろされたまさに雷の衝撃が直撃し、化けツヅラオ三体は一瞬にして 蒸発、チリと消えた……。 …………………………………………………… 「私も、弱いものいじめをする趣味はないのですが……  でも、あなた方に関してはさせていただきますよ。粉みじんに粉砕するまでね」  一方の坊主Cも、戦況は番長と似たようなもので。もはやあがいているとしか いえない化けツヅラオ達を華麗にあしらい、蹴散らし…… ぱんと攻撃を払いのけるとそのまま宙に跳ね上げ、ぎらりと目を光らせた。 「ですからこの技も、遠慮なく使わせてもらうと致しましょう!  大魔王流の奥義が一つ・究極の “掟破りの空中元彌チョップ”!!  カラミティ・エンドォッ!!」  手を真っ白に輝かせ、一閃。某大魔王の究極の一撃の名にふさわしいその手刀は 化けツヅラオの首を一瞬に両断して赤黒い妖気に蒸発させたが、それで留まるはずも なく。続けざまに他二体の化けツヅラオの方へ向き直ると、隠し持っていたのだろう 今度は懐から呪符を取り出して、展開! 「…続きましては、大魔王流が第二弾…。究極の炎符、火鳥の符!!  カイザー・フェニックス!!」  展開と同時に、坊主Cの手にした呪符からは凄まじい炎が巻き起こって火の鳥を 形作り…、彼が手を振ると同時に化けツヅラオ達の元へと飛び出し、瞬く間に 二体を業火に包み込んで激しく燃え上った。 「…火葬は “野辺の送り” としては定番ですが、あなたには不要の代物でしたかな。  化け物に葬送などは、ね」  野辺の送りとは、死者を火葬場や埋葬場までつき従って送ること。火鳥の業火は まさにそれそのものと言えたが、もはや妖気も残さぬほどに燃え盛り。二体を完全に 食い尽くした後に、ようやく消え…… そして、それとほぼ同時に聞こえてきたおぞましい悲鳴。悲鳴のした方向に二人が 振り返ると、そこで信じられないものを目にした。それは…… 「ぬお!? な、なんじゃあいつは!? キュウビか!?」 「…どうやら尾の化身たる化けツヅラオを八体倒したことから、化けの皮が剥がれ  ましたか…。番長! アレがキュウビの正体です!!」  そこにいたのは、キュウビだった。 しかしその姿たるや、妖魔王の象徴とも言えた全身の白金色の毛は既に他の動物の 狐と同じ茶色になって、仮面も割れ落ちて隻眼の素顔が露わにされており…… 自慢の妖気結界もその瞬間、ガラスが割れるような音を立てて消え去っていった。 「! 結界が消えた! それにキュウビから感じられる妖気も、格段に下がった…。  神通力が消えたか!!」 「成る程のう。あの姿からするに、あいつは “猫叉” と同じ、化けた動物か!  それなら、ここまでになったらもうそこらの魑魅魍魎と変わらんな。あと少しじゃ!」  キュウビの正体…。それは長き時を生きるうちに邪気を募らせ、妖怪となった古狐。 それが混沌から力を授かって、妖魔王になるまでの妖気をその身につけたのだが それも今や二人の手によって引き剥がされ、完全に丸裸の状態にまで戻された。  ならばあと一歩だと、二人はキュウビの元へと歩み寄るが…、対するキュウビは ここまで追い詰められてもなおその隻眼には憎悪を宿し、二人をそれは憎々しげに 睨み付けており、坊主Cは、番長は。今一度緊張の面持ちで身構えた。 「番長! 手負いの獣ほど危険なもの! 弱っているとて油断されるな!」 「もちろんじゃあ! 対象を完全に消し去って、初めて削除と言えるんじゃからのう!  その過程でしくじっとっちゃ、削除番長は務まらんわ!!」  ここまで来れば、あともう一押し。しかしその時こそが最も危険な状況でもある。 番長が飛びかかろうとした、しかしその瞬間。目を真っ赤に光らせたキュウビは 全く今まで変わらぬ速度で、番長に突進を仕掛けてきたのだ。 「な、なんじゃとぉぉぉッ!? くっ!!」  キュウビの突進をほぼ直撃しながらも、番長は何とか体勢を立て直して縦横無尽に 荒れ狂うキュウビの七支刀を天叢雲剣を使って捌き、弾く。 弱っているはずなのに一行に速度と重さの変わらないその衝撃に、番長は顔を歪めて 舌打ちしながら手を振った。 「こいつは…、弱ってこれだとしたら、どういう化け物じゃあ…!!」 「堕ちても妖魔王…ということですか。大した力ですな!」  あちらこちらを飛び回り、突進を繰り返しては豪剣を振り回し。力は格段に落ちた はずなのだが、キュウビの攻撃は衰えるところを見せず。むしろますます憎悪に 目をぎらつかせ、そののど笛を食い破ろうと動きは激しさを増していた。 この期に及んでもこれだけの暴れようなので、まさかキュウビの力は底なしか。 そんな可能性まで浮上してきたが、しかし…… 「所詮は、悪あがきじゃったのう……!」 「如何に妖魔王といえど、ここまで堕ちればもはや起死回生の手はない……。  終わりの時が来たのです、キュウビ!」  あと一歩のところまで追い詰められながらも、凄まじい勢いで剣を振り回して暴れ 回るキュウビだったが、それもほんの束の間…。もはや妖力も何も残ってはいない 今の状態では、暴れてもそれが長続きしない。今までの反動も一気にやってきたのか 息を切らせて、足をがくがくと震えさせた。 「…それでは、番長。仕上げと参りましょう!」 「おう! …このくそったれに、とうとう最後を与えてやるんじゃな!」  もはやこれまで。すっかり弱り切った様子のキュウビを見て、ここで討ち取ると 坊主Cは懐から勾玉のような形をしたものを二つ取り出して一つを自分に、一つを 番長に手渡した。 「三種の神器が、三つ目…。八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)!  この最強の神器を以て、あなたへの手向けと致しましょう!!」  二人が手に取ったそれは、成る程確かに最強と言うだけあって、霊力を注入して 発動した瞬間に太陽を思わせるほどの強烈な光を発し…、二人の勾玉を合わせると 某元●玉を思わせる、巨大な球状を形作った。 「バ、馬鹿ナ…! ヤメロ………!! ヤメロ!!」  その圧倒的な光を見て、もはや直視できないほどにまばゆい光の玉を見て キュウビの心に “ある感情” が湧き起こった。 遠い昔、高名強大な陰陽師と対峙して、彼がとどめに使った “究極の術”……。 それを目の当たりにした時に感じたのと、似通った感情。 …もっとも、その大きさは今回の方が比較にならないほどに大きかったが。 「我ガ…! 我ガ、消サレルトイウノカ…!? 消滅、死スルトイウノカ!?  アリ得ヌ!! 妖魔王タルコノ我ガ滅スルナド、アリ得ヌ!!」  わなわなと体を震わせ…、その震えももはや武者震いなどというものでもない。 これまで自分が他者に散々味わわせてきた、一度消えれば二度と戻りはしない 絶対の不可逆、恐怖の…死の感触。 それが我が身に迫った時の、何と恐ろしさを感じることか。どれだけの言葉を吐いて 自分に迫る危険を否定しようとも、一向に変わりなどしないその絶望。 「ヤメロ………!! ヤメロ!!」  これだけの圧倒的な光の力を叩き込まれたらどうなるか、それはもはや火を見る よりも明らか。キュウビはここに来て初めての台詞を、生まれて初めての台詞を 二度も吐いたが、しかし、対する二人は…… 「やめろ、やめろ……じゃとよ? その心は何じゃろうな、坊主よ?」 「ああ、じらすのはやめて、早く叩き込んでくれと言うことじゃないですかね?  …こちらも白菜の件がありますから、お望み通りにさっさと片付けるとしましょう!!」 「ッ!!!」  瞬間、巨大な光の玉が炸裂し、これ以上ないくらいの大絶叫が響き渡ったが…… …それもすぐに消え、あとには静寂のみが残った……。 続く これにて決着。後は白菜うどんのキャッキャウフフだッ!  苦いお茶を用意しておくがいいさッ!!