「カーーーーーッ!!」  戦闘開始直後に、まずはご挨拶と言わんばかりにキュウビは目と口をかっと開き おおよそ生物が出せるものではないような速度で二人に向かって突進してきた。 「ちぃっ。あんな突進がかすっただけで、何とも体がひりついてきよるわ…!」 「奴の体から発せられる、妖気…。触れただけでも傷となるか!!  だが、やられてばかりとはいきませぬぞッ!!」  膨大な妖気はたとえるなら熱気のようなもので、それに触れただけでも常人なら 傷を負ってしまう。まして妖魔王キュウビのそれがどれほどのものかは説明の 必要もないだろうが…、しかし、逃げてばかりいるわけにもいかない。 キュウビの突進を何とか避けた二人は、キュウビの後ろからそれぞれ爆砕符を メンチビームを放った。狙いや速度から、直撃は間違いない!そう思っていたが… だがキュウビは迫り来るそれら攻撃を、フンと鼻で一笑いし…、そのまま突進した 時の勢いで横飛びし、跳躍し、子供のじゃれつきをあしらうような様子で二人の 攻撃を、いとも簡単に回避してのけたのだ。 「ぬぅッ!? ワシのビームをあれほど簡単に避けたじゃとッ!?」 「あの大柄で、当たるどころかかすめることもできないとは…!」 「カッカッカ! 亀ニナラ当タロウモノダガ、コノ我ニ、ソンナノロイ攻撃ガ当タルカ!」  自分たちのメンチビームが、爆砕符が、対するキュウビはその巨体であるのに 身軽に飛び回って難なく二人の攻撃を避けられ…。お返しと妖気の弾丸をばらまいて 一発一発が大爆発を起こすその弾丸を、命からがら紙一重と何とか回避していた。 「サァ、ドウシタ! 我ノ力ハマダマダ、コンナモノデハナイゾ!!」  冷や汗を流す二人とは対照的に、キュウビはますます素早くあちこちを飛び回り 妖気の弾丸や突進だけでも十分に強力な攻撃なのに、そこから更に。そのまま ばっと、背中に携えた剣…“七支刀” を高々と振り上げた。 「うぉぉっ!? あれは……!」 「!! まずい…、妖気があの剣に集中している! 下がるのです!!」  高々と振り上げた七支刀には、みるみるうちに赤黒い妖気が宿り、渦巻いていき…… それが最高値に達したときにキュウビは勢いよく剣を振り回し、たまった妖気が衝撃 波のように拡散し、凄まじい速さで二人に襲いかかってきた。 「ぐおお……おッ!!」  さながら、焼尽の風。強烈な熱風のような衝撃を受け、何とか坊主Cの守護の符で 防御は出来たものの、それでも体力はかなり削られてしまい。開始早々でここまで 危険を感じたのは初めてだと言わんばかりに、二人は寒気を感じていた。 「結果はともかく、こんな奴に白菜はよく一人で立ち向かえたものじゃのう…!」 「伊達に魔王候補ではないということですが…、しかし、我々は我々で勝たねば  なりません! 負ければ白菜も鈴仙殿も、皆終わりです!!」  自分たちが負ければ、キュウビに抗える者はいなくなる。…そうなればキュウビは これまでの予定通り…いや更にそれを激化させて白菜に、鈴仙に地獄を見せるだろう。 もちろん二人が没しても、それにとどまるはずもない。その暗い快感に味を占めた キュウビは、同様の手口を他の者にも実行していくことだろう。  それは、何としても避けねばならない。ここでキュウビを止めなければならない 故に坊主Cも削除番長も全力で攻撃を仕掛けるが、悲しいかな。キュウビは変わらず 俊敏に避け、傷を負わせるどころか全く当たる気配すら見せない。 “威力はあっても、当てることが出来ない…。どうにかして、奴の動きを止めねば…!”  永琳の薬で呪符の強化は施してあるものの、それも当たらねば効果がない。 広範囲に攻撃する呪符もあるにはあるのだが、力の消耗が激しくなるのでなるべく 使いたくはない。とにかく動きを止めなければ…… 「やれやれ。DIOがいれば苦労しなかったものですがね……」 「無い物ねだりなんぞするなッ! …とはいえ、事実そうじゃからのう……」  だがキュウビは、これほど動き回っているのに一向に動きを止める気配がない。 流石に体力が無限ということはないだろうが、しかしまさか体力切れを狙うなどという 悠長なことをするのではないか。そうも思われたが、しかし違う。坊主Cには考えがあった。 「…番長。ただ闇雲に攻撃しても奴には無駄なのは自明の理ですが…、私には  考えがあります。ですから私が合図をしたら、攻撃をしてください!!」 「おお、頼もしい言葉じゃのう! 分かったわい!!」  …彼は、狙っていた。縦横無尽に飛び回るキュウビに攻撃が出来るようになる まさにその時を。必殺の攻撃を避け、或いは牽制し、何とかその時が来るのを待ち… 「……!! 今です、番長! 攻撃を!!」 そして、とうとう “その時” が来た。キュウビが剣を口にくわえ、高々と振り上げたのを 見ると、坊主Cはかっと目を見開き、大声を上げた。 “妖力を剣にためている時ならば、動きを完全に止めている!”  そう。この時ならば…終始あちこちを飛び回っているキュウビだが、唯一その 動きを止めるのが、剣を立てて妖力を充填している時…… 今なら、この強化呪符をぶつけることが出来る! 番長の渾身のメンチビームと 自身の爆砕符を投げつけ、それは予想通りに見事に命中し、大爆発を起こした! 「やったか!? 直撃したぞッ!!」 「油断されるな! 奴の姿を確認して……」  並みの敵ならここで終わりなのだろうが、しかし相手は妖魔王。幾ばくかの手傷は 負わせただろうが、あれで終わりであるはずがない。 もくもくと立ち上る煙が消えるのを、息もせずに見守っていた二人だったが 煙が薄らいできたとき、信じられないものを目にした。それは…… 「…何ダ、今ノハ? モシカシテ今ノガ、会心ノ一撃カ……?  ダトスルナラバ、哀レトイウホカナイナ……?」  確かに、当たった。攻撃はキュウビの体に見事なまでに当たった。 しかし爆煙の向こうから現れたキュウビには、何の傷を負った様子もなく…… 力の差を見せつけるように、坊主Cの爆砕符よりも遙かに大きな爆撃を返した。 「ぬおーーッ!! …この化けモンが、こいつも駄目かいッ!」 「効果が、ないのか…!? 奴は無敵なのか…!? いや!」  渾身の一撃に全く効果がなかったことで、坊主Cの心に絶望が生じかけた……が そこで思い返すのは、“かつてキュウビが封印されていた” こと。どれだけ妖力の 高い妖魔王であろうと、完全無欠ではない…。ならばどこかに隙があるはずだと キュウビの猛攻を避けながら、坊主Cは必死に考え、考えた。  “先の攻撃からして…、奴にはおそらくどんな符で攻撃したところで無駄……!  ならば、手段を変えねばならぬが…!”  攻撃が通用しない以上、新たな手を考えねばならないが、何分相手は妖魔王 キュウビ。その凄まじい攻撃力を回避し続けるのは至難の業であり 実際に今も紙一重のところで避け、或いはかすめ、いつ直撃を食らっても おかしくないような状況下で、何とか生き延びているといったところだった。 「ぬおおおおお……! こりゃ、どうにもならんのか…!?」  避け、あるいは防御して。しかし戦況は防戦一方であることには変わりなく……。 そのうちにつまらなくなってきたのか、キュウビは忌々しげに仮面の奥で歯がみし 七支刀を加え、高々と振り上げた。 「我ノ結界ヲ破ッタカラ、ドンナ実力ガアルノカト思エバ……  弱イ! 所詮虫ケラハ虫ケラカッ! 相手ヲシテヤル必要モナイ!!  …貴様ラ二匹トモ、一刀両断ニシテクルワ!!」  その言葉通りに、七支刀を高々と振り上げたキュウビは再び妖気を充填し始めた。 これを受ければ先ほどの比ではない、文字通りに真っ二つにされるだろう。 黒々と妖気が渦巻いていくのを目の当たりにし、坊主Cはそう感じていたが…… “どこかに、絶対に存在するはずなのだ……。どこか…”  しかしまだ、隙を見いだすことを諦めていなかった。どこかにあるはずだと キュウビにその視線を釘付けにしていた…、その時! 何かに気づいたように はっと表情を変えると懐から呪符を取り出し、詠唱を始め…… 「雷符、攻撃用最強転化……! 見よ! 雷撃符!!」  坊主Cのかけ声と共に、手にした呪符からまばゆい雷が放たれる。雷はそのまま 避雷針に落ちるが如くキュウビの振り上げた七支刀に命中し、瞬間。妖魔王の 手足がちぎれんばかりに伸び、ばちばちと激しい音を全身から立て。それを見た 二人はよし! と歓声を上げた。 「どんな妖気を宿らせようと、奴の持つ剣は金属に変わりはない…。  ならば電撃を与えれば、効かぬ道理はない!」 「言われてみればその通りじゃな! それもあんな高々と振り上げおっては、雷も  よう落ちるわ! 阿呆のキュウビが! がはははは!」  今まで攻略の糸口さえ見つからなかったキュウビに、初めて通用した攻撃…。 二人はやはり歓喜していたが…、しかしそれも長くは続かず。電撃が収まると キュウビの体が真っ白に光り、九つに分裂したのだ。 「な、何じゃあ!? また新しい攻撃か!?」 「お気をつけなさい、番長! 奴の妖気は一向に衰えていませんぞ!」  喜びも束の間に二人がまた緊張した面持ちで身構えると、その先で…… 分裂した九つの光が、何かの姿を形作り始めた。光が弱くなってきた頃に確認 できたそれは、狐の面をかぶり、キュウビが持っていたような七支刀を手にした 尼僧の姿をした者が九人で…… 「あれは…、化けツヅラオか!」 「! 知っとるのか、坊主よ!!」  それを見た途端、坊主Cは見覚えがあるとはっとなり。番長が彼の方を振り返ると 尚も顔を強張らせたまま口を開いた…。  「ええ。…あれは 『化けツヅラオ』 という名の妖怪なのです。  いにしえの伝承では、キュウビはとある国の女帝を殺すために、その国の祭事を  司っていた尼僧を殺して成り代わり、機会をうかがっていたと言います……。  尼僧は正体が暴かれたその時、狐の面をかぶって七支刀を手にした妖怪の姿に  なりました。ちょうど目の前の奴らのような、ね!」 「とすると、そんなもんに変化したっちゅうことは、もしや……!!」  やはりキュウビも狐の妖怪であるが故か、策を弄する妖怪のようで…… そのキュウビの化身とも言える、目の前に現れた、狐の面をかぶった尼僧姿の妖怪 化けツヅラオが九人。全員が目を赤く光らせて二人の回りに立ちはだかった。 「カカカカ……!! 『攻撃ガ効イタフリ』 ヲスルノモ疲レルモノダ……。  ……我ニ何ノ攻撃モ通ジナカッタノガ、ソレガ剣ニ向ケラレタモノダトハイエ  アンナ電撃ゴトキデ効果ガアルトデモ、思ッテイタノカ!?」 「! 馬鹿な…! あれも…遊んでいたようなものだというのか!?」 「我ハ妖魔王! アノ程度ノ火花デ散ラセラレルナラ、何ガ王ト名乗レヨウ!  …先ハ我ヲ謀ッテクレタカラ、ソノ返シヨ! コノツヅラオガ九人、貴様ラヲ  八ツ裂キニシテクレヨウ!!」  先ほどに続いて、今回もまたしても…。どうやら今の攻防は、先ほどの結界の 意趣返しだったようで。すっかり愕然となった坊主Cと番長に、化けツヅラオ達が 七支刀を振りかぶりながら一斉に飛びかかってきた。 「くおッ! 何じゃこいつら!! 無茶苦茶速いぞ!!」 「分裂したとはいえ、奴らは元をキュウビとする妖怪! 油断されるな!!」  九つに分裂したのだから、四体分裂の天●飯よろしく力もそれ相応に下がっている のかと思いきや、その実力も速度も全く落ちた様子を見せず。元から素早かった キュウビの速度が更に増加し、しかも多方向から攻撃を仕掛けてくるようになったのだ。 「こんの…、ちょろちょろと! 鬱陶しいクソ共がッ!!」  一人を視界にとらえて攻撃を仕掛けても、宙を舞う葉のようにひらひらと攻撃を避け そして後ろから二人目、三人目が波状攻撃を仕掛けてくる。単体の攻撃力は確かに 減少してはいるが、結局のところさして変わらない…、いや、状況は悪化していた。 「カーッカカカカカッ!! 分身シタ我ラニモ勝テヌカ!?  ヤハリ、我ラノ力ノ差ガ開キスギテイタトイウコトカ! クカカカカーッ!!」  代わる代わるに、或いは一斉に。いずれにしてもその攻撃には容赦というものが 欠片も感じられない執拗な代物で。さしものミステリアスパートナーズの二人といえども 劣勢は覆せないとも思われたが……、いや……  だが集中砲火を受けながらも、番長は目を光らせており…、そして、動いた。 ツヅラオ達の攻撃がなくなった、そのまさに一瞬。番長は手を素早く伸ばすと 目の前にいたツヅラオの頭を、がっしりと掴んだ。 「確かによう、お前は強いわい…。妖魔王も伊達じゃあないわな……。  じゃが、ワシを…、この削除番長を嘗めさらすなぁッ!!」  その形相は、まさに鬼のごとし。捕まれているツヅラオの頭からはみしみしと嫌な音を 発し…、二人目、三人目が飛びかかってくると腕を振り回して弾き飛ばし、そのまま 掴んだツヅラオを地面にたたきつけた。何度も、何度も。  地面にぶつけられるたびに、おおよそ岩石でも落ちたかのような轟音が響き ツヅラオの狐面にひびが入り、隙間から赤黒い妖気が漏れ出す…。 これが人間ならとっくにお見せできません展開になっていただろうが、生憎 相手は妖怪なのでお構いなし。びくびくと体を震わせていたツヅラオも、そのうちに 動かなくなり…、じきに全身から妖気が立ち上ると、そのまま消えてなくなった。 「これは……、倒したっちゅうことで、ええんか……?」 「ええ。…『この化けツヅラオは』 倒せましたよ。一人を……ね!」  そう。確かに削除番長は化けツヅラオを満身創痍ながらも倒した。…一人を。  一人が倒されたのを見ると残り八人は動きを止め、また光に包まれると一つに 集い、元のキュウビの姿へと戻り。 キュウビは自らの尾を広げると目を見開いて一声、大きな笑い声を上げた。 「……クカカカカ! 流石ニ腐ッテモ、ミステリアスパートナーズ…。我ノ尾ヲ一本  デモ断チ切ルトハ、大シタモノダ!」  笑う、笑う。これ以上ないくらいに愉快そうに大笑いをしている。 先ほど自分の結界を破られたときには、あれほど怒りに歯がみしていたというのに 一体何故だと二人が身構えると、キュウビは威嚇するように大きく息を吐いた。 「ダガ、貴様ラガ二人ガカリデ、全力ヲ尽クシテヤット一本……。  小手調ベニ…様子見ニ貴様ラニ攻撃シテ、落チタノガタッタ一本……。  …ナラバ我ガ、今ノ様子見程度デハナク、本気デ潰シニカカッタラドウナルカナ!?」 「ッ!!」  先ほどの攻撃でも十分に強力だったのに、何とあれが小手調べ程度と聞かされて 顔を歪ませ冷や汗を垂らす二人を前に、キュウビは八本の尾を大きく扇状に広げ… 分裂。 八人の化けツヅラオが、再び七支刀を振りかぶって二人に襲いかかってきた。 再び襲いかかる、悪夢の集中砲火。しかも今度はキュウビの言葉通りに先ほどとは 比べものにならない攻撃力で斬りかかってきた。…頼みの防御の符も風前の灯火で 二人の体力は確実に削られていたおり…、とうとう坊主Cが、膝をついてしまった。 「お、おい! 坊主! しっかりせぇ!!」  自分もともすれば倒れてしまいそうな状況で、しかし相方の方へと駆け寄る番長 だったが、坊主Cはそれを制し。大丈夫だったかと番長は胸をなで下ろしたが しかし、そうではなかった。坊主Cはとんでもないことを言い出してきたのだ。 「くッ…! …もはやこうなっては、やむを得ませんな……。  番長! 私に全力でメンチビームを放つのです! 早くッ!!」 「な、何じゃとぉ!? お前…、何を言い出しよるんかぁ!?」  何とこれは如何なる事か。坊主Cが削除番長に、事もあろうにキュウビではなく “自分に” メンチビームを撃つように声を出したのだ。 「まさかお前、諦めたっちゅうんか!? ワシにお前を撃ち抜けっちゅんか!?  …いや、分かったわい。ほんだら全力をぶち込んだるで、とくと見とけよ!!」  そして、対する削除番長も…躊躇った様子を見せたものの、結局全力のメンチ ビームを撃ち出したのだ。当たれば絶命必至、真っ白に光る光の筋を……。 「クカカカカ! トウトウ頭ガイカレタカ!? ソレトモ我ラニヤラレルナラバ、味方ノ手デ  自害シタイトイウコトカ!? ドチラデモヨイワ! クカカカカカッ!!」  削除番長が放ったメンチビームは、手加減など一切ない全力のもので。 対する坊主Cも、寸前で避けての戦術をとるかと思いきや、全く避ける気配を見せない。 まさかキュウビの言うとおり、本当に自害するつもりなのかと思われたが… 「傲慢。それは一番持つべきではない感情……。  見えるべきものが見えなくなる、戦闘でもそれ以外でも最大の大敵です!」 「さっきの結界で分かったかと思ったが、やーっぱりそう簡単には治らんわな。  まったく、ワシらをなめてくれてありがとうさん、と言っておくかのう!!」  そうではなかった。二人は不敵にニヤリと笑みを浮かべ…、坊主Cが顔の前に 指を伸ばすと、ぱっと光が彼の体に宿り。それを確認すると、彼はsm9のピコ麻呂 よろしく、また笑みを浮かべた。 「…侮るのも、大概にしておくことです。妖怪退治を生業としてきた私が…、妖怪を  退治するに当たってその装備が、強化したとはいえ呪符だけだとお思いか?」 「! 何ダト!?」  言われてみれば確かにその通りだと、キュウビは…化けツヅラオ達はぎくりと 顔を歪めた。まさか呪符だけでない、何か武器を隠し持っているのか。削除番長の メンチビームが坊主Cに到達しようとした、まさにその瞬間! 「妖怪殲滅のための、神の道具…。先ほどようやく封印解除の術式が完成しました。  ではまず、一つ目をお見せすると致しましょう!  三種の神器が一つ、八咫鏡(やたのかがみ)!!」 …結果は、まさにキュウビの危惧した通りとなった。坊主Cが懐から取り出したものは 神の道具・八咫鏡。 鏡に反射したメンチビームは、鏡に当たると幾筋にも分かれ しかしその一本一本が、分かれる前と変わらぬ威力と速度で突き進み…… 「マ、マズイ!! 避ケネバ……!」  すっかり油断していた化けツヅラオ達は、慌てて回避行動を取ろうとするものの 既に手遅れ。何人かにメンチビームが直撃した。 「…古来より、本邦に伝わる神の道具が一つ…、八咫鏡!  向けられし攻撃を増幅して撃ち返すという特性を持つ、守りの神器。すなわち  たとえ分散したメンチビームでも、これで増幅すればしぼったそれと変わらぬ  威力になりますからな。…今のあなた方は、番長のメンチビームを真正面から  食らったのと同等の傷を負ったということになりますが、如何かな……?」 「グ、ク……!!」  並みの妖怪ならば今の一撃で完全に昇天していそうなものだったが、そこは やはり妖魔王で。化けツヅラオ達は渾身の力で七支刀を、八咫鏡を持つ坊主Cでは なく削除番長に振り降ろしたが、それが彼に届くことはなかった。何故ならその寸前で 今度は削除番長が、白く輝く剣を手にして攻撃を受け止めたからである。 「今度は、ワシの番じゃ! 三種の神器が一つ、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)!  おどれらのナマクラ刀なんぞ比べものにならん、攻撃の神器じゃあ!!」  坊主Cの八咫鏡に引き続き、今度は削除番長が三種の神器の一つ…天叢雲剣を 取り出してきた。確かに“三種の” 神器であるのだから、坊主Cの鏡だけであるはずは ないのだが…、しかしキュウビの驚きは、それに対するものだけものではなかった。 すなわち 「馬鹿ナ!? …神器ヲ扱ウタメニハ、莫大ナ法力ガ必要ニナルハズ!!  ソチラノ坊主ハトモカク、何故陰陽デモナイ貴様ガ神器ヲ使エルノダ!?」  削除番長が神器を完全に使いこなしていることに驚愕するキュウビだったが これも当然と言うべきか。神器はその名の通りに神の道具で、扱うには相当の法力 或いは霊力が必要とされる。元より陰陽師であった坊主Cならば修行の賜物という ことで理解できるが、削除番長は…!?  …キュウビを前に、番長は剣を担ぎ上げるとニヤリと笑って一歩前に出た。   「確かにのう。ワシは陰陽師でも坊主でもない。その意味では単なる野郎じゃ。  …じゃが、ワシは陰陽師のこいつとコンビを組んどるんじゃ。それなら何かしら  連携を組んで闘える手段があった方がええ…。じゃから坊主にちぃと稽古をつけて  もらっての。今じゃこいつを使えるくらいにはなったんじゃあ!」  声も高々に剣を振り回し、構えてみせる削除番長。稽古を付けてもらったとは言うが 前述したとおり、並の力量では陰陽師以外の者が神器を扱うなど到底叶わぬ話。 そこは流石にミステリアスパートナーズの実力であり、また坊主Cの教えも良かったと いうことなのだろう。今や言葉やこなたすらをも凌駕するような勢いで番長は剣を 振り回し、化けツヅラオ達を蹴散らしていた。 「さーて! これまで散々なめくさってくれた分…、たっぷりとシゴしたるからの!  覚悟せいや、腐れ畜生がッ!!」 続く ミスパ反撃のターン。そこで出したのが三種の神器……。 本当はハゲ反射とか使おうと思ったけれど、あまりにもシリアスが崩壊するから やめておいた。多分これで良かったと……。