“あいつら……、まさか俺のことを、助けに来たってのか……?  …あれだけ無茶苦茶やって、傍若無人だった俺を……!?”  思わぬ来訪者を見て戸惑う白菜の脳裏に蘇るのは、かつてミステリアスパートナーズの 一人として、魔王候補として暴れ回っていた頃のこと……。 その頃の自分は今目の前にいるキュウビほどでないにしても、血の気に任せて 不必要な破壊を繰り返し、暴虐に明け暮れていた。 “白菜、ほどほどにしとかんかい! お前はやり過ぎじゃあ!!” “ここまでやれとは、アナゴも申していなかったでしょう! 少しは…”  闘いに敗れ、鈴仙らと一緒に闘いから離れた暮らしを始め…、またキュウビの残忍 無慈悲な姿を見たから分かる。あの時の自分はキュウビと似たようなものだったと。 だが当時の自分の心には、そんな思いなど一欠片すらもなく。 “うるせぇな!! 全部ぶっ壊しゃいいんだろうがッ! がたがたぬかすなッ!!” むしろ自分の行動に口出ししてくる坊主Cや削除番長を煩わしく思い、何度もぶつかり 合っていた。俺のやっていることの何が悪い。部下のみならず同僚のミスパ連中にも 恐れの目で自分を見ていた者がいたことにも気づかずに。 “この状況…、もし万が一誰かが来るとして、一番来る可能性がなかったってのに…  どうして、あいつらが……?”  考えても、分からない。呆然と四人の姿を見ていた白菜だったが、見ていると 話の内容が彼のものになってきたようで。また食い入るようにスクリーンに目を移した…。 ……………………………………………………… 「…キュウビへの対抗策は出来ましたが、あとは結界を破る術を編み出すのみ…。  唯今全力で取り組んでおります故、もうしばし、お待ちいただきたい……」  キュウビそのものもともかくとして、それを囲んでいる結界も相当に強力なものに 違いはない。番長を助手に、坊主Cは机においた呪符を前に一心に祈祷を続けて いた、その時…。てゐが二人のところへと近寄ってきた。    「お? …どうした、嬢ちゃん? 何かあったかのう?」  何かと思って削除番長が腰をかがめると、てゐは…、しばらく俯いて小さく唸った後 言いにくいことを言うときのように、小さな小さな声を出した。 「番長さん…。ちょっとね、番長さんと坊主さんに聞きたいことが…あるの。  …兄さん、言ってたんだ。“ミスパ時代、坊主や番長は色々忠告警告してくれてた  のに、俺は全部はねのけてやりたい放題馬鹿やってた。…後悔してるけど  今更合わせる顔がない” って……。  それくらい…あんまり番長さん達は兄さんと仲がよくなかったのにさ、どうして来て  くれたの…? どうしてキュウビみたいな化け物が相手なのに、兄さんを助けに  来てくれたの…?」    奇しくも白菜もそのことを思い返していたのだが、彼らがミスパ時代に一番衝突が よく見られていたのも事実。見捨てこそすれ助けに来るなど、あり得ないとも思って いたのに…。彼女はそう考えていたようだが、坊主Cと削除番長は目を合わせると 二人して含み笑いを始めた。 「ああ、確かにのう。白菜の奴はミスパだった頃は、それはそれは聞かん坊じゃったわ。  じゃが、ああいう…周りの言葉がみんな鬱陶しく聞こえて、跳ねっ返る時期は誰に  でもあるもんじゃからな。白菜の奴は元から気が強いから尚更じゃったが……」 「まぁ、偉そうなことを言わせてもらえばですね。子どもの反抗期に本気で敵意を抱く  大人などいないということです。本気でぶつかり合っていたら、それこそ文字通りに  大人気ないというものですからね。  …故に。彼に危機が迫っていた今、参上したのですよ。彼とはかつてのものとはいえ  同じ釜の飯を食った仲ですから、殺されるのを指を加えて見過ごすなど出来ようはずも  ない…。相手がどんな者であっても、ね」 「……………………」  実年齢はともかく、まだ少女…子供のてゐには坊主たちの言っていることはピンと こない部分も多かったが、しかし少なくとも彼らが白菜のことを大切に考えてくれて いることは理解でき、胸の内がじんわりと温かくなってくるのを感じていた。 そんなてゐの様子を見て、番長は柄にもない優しい笑みを浮かべて、また彼女の頭を 優しく撫で…… 「それじゃあ嬢ちゃん。またちょっと、鈴仙嬢ちゃんの様子を見てきてくれんかのう?  なに、坊主もワシも戦闘準備がばっちり出来たからの。あと坊主のこいつが完成  したらすぐにキュウビをぶっ倒しちゃるから、それで白菜が戻ってくるのも時間の問題  じゃ。楽しみに待っとってくれりゃええぞ!」 「うん、分かった! …もし嘘だったら坊主さんと番長さんの頭に、金ダライ100個落として  コブだらけにしちゃうよッ!」  “久々に”、てゐは年相応(?)にはしゃいだ様子を見せ、元気よく鈴仙の部屋に 走っていき…、彼女の後ろ姿を坊主Cと番長はにこやかに、永琳は涙まで浮かべて 見送っていた……。 ………………………………………………………………… 「そんな、お前ら……!! 」  …どうやら彼らの自分に対する態度は、自分が思っていた以上のものだったようで… 相変わらずスクリーンにかじりついたまま、しかしこちらも胸が熱くなってくるのを 白菜は感じており、その後ろでは…… 「魔王候補ノ正体、カクノ如キ……カ」  まるで汚いものでも見るような、蔑みそのものといった視線で白菜とスクリーンの 両方を見ているキュウビの姿があり、白菜の耳元に顔を近づけ小さくささやいた。 「何ダ、ソノ顔ハ? …タマラナク嬉シイノカ? 他人ガ自分ヲ助ケニ来テクレタノガ?   以前ハ誰ノ手モ借リヌト、古今独歩ノ道ヲ行ッテイタト聞イテイタガ……  …所詮ハ、コレカ。孤高ノ存在ヲ気取ッタ、腑抜ケ魔王……」  白菜のプライドを煽るように、神経を逆なでするように挑発的な言動をするキュウビは しかししばらく白菜の顔を黙って見ていると、急に何かを思いついたように目を光らせ 不気味な笑い声を漏らし始めた。 「…イイダロウ! 気ガ変ワッタ…。モットジックリヤルツモリダッタガ、コンナニ  獲物ガ揃ッタ状況ナラ、ソレ相応ノ楽シミ方ヲサセテモラウトシヨウカ……!  …サテ貴様ハ、アノ兎娘ハ果タシテ、ドンナ顔ヲ見セテクレルカナ!?」 「! 何を…、するつもりだ…!? まさか、鈴仙を……!」 「マヌケガ! アノ娘ナリ貴様ナリヲ引キ裂クノハ、マダ先ノコト……。  今回ハ、ソノ前菜ダ! 楽シミニ見テイルガヨイ!! クカカカカカァァッッ!!」 ………………………………………………………… 「し、師匠! 鈴仙の様子が、変だよ!!」  鈴仙の様子を見に行ったのが、すぐにとんぼ返り。開口一番、血相を変えててゐが ただならぬ様子で部屋に飛び込んできた。思わず坊主Cが、番長が、永琳が立ち上がり 彼女の元へと駆け寄った。 「な、何があったの!? 落ち着いて話しなさい!!」  永琳が差し出した水を飲み干し、呼吸を落ち着け、てゐが話し出したこととは…… …………………………………………………………………… “うわぁぁぁああ……! あああぁぁぁぁぁああああ……!!”  心の傷は月日が経てば薄れていくとは言うけれども、ここにあっては全くそんな 気配を見せず…。彼女が涙を流している異常事態が日常となってしまっている  異様な状況下で、鈴仙は相変わらず悲嘆に暮れていた。  その悲しみぶりがどれほどのものかと言えば、起きていても白菜がいなくなったと 一日中悲しみに泣き続け、寝ていたとしてもやはり白菜が殺される悪夢を見ては 夜中に飛び起き、また涙する……。 おおよそ本人だけでなく、見ている回りの者まで闇に取り込まれそうな感覚を 覚えるまでになっていたが…、それが今夜は様子が違っていたのだ。即ち…… 「…様子がおかしい、と聞きましたが……、これは……?」  鈴仙の部屋の扉を開けて彼らが目にしたものは…、鈴仙が布団の中で眠って いる光景だった。 実に、実に穏やかにすやすやと。…これの一体何がおかしいの かという顔を坊主Cと削除番長はしたが、それもすぐに分かることに。 「…おかしいでしょ…? 鈴仙の奴、兄さんがいなくなってから夜もまともに眠れて  なかったのに…、それが何で今は、まだ兄さんが戻ってきてもいないのにこんなに  平和に寝てるのさ…? 日中はもう、手に着くものなんか何もないって勢いで一日中  泣き伏せてる鈴仙がさ……。眠ってるときでも酷い悪夢を見て泣いてた鈴仙がさ……  どうして、今日はうなされてないのさ…!? どうしてこんな、静かなのさ…!?」 「!! 言われてみれば……!」  言われてみればその通りと言うべきか。日中はまさに絶望のまっただ中にいる 鈴仙が、今までは悲しみに疲れて眠っているときも悪夢にうなされていたという 彼女が、何故今はこんなに平穏に静かなのか…?  まさかこれかと四人は顔を見合わせ…、その中で坊主Cが一歩前に出ると 鈴仙に向かって札を一枚かざした。 「この気配…、妖気! 間違いない、キュウビか…。  一体、今度は何をしようとしている!? …あぶり出してくれる!」  坊主Cが鈴仙に向かって札を投げつけると、札は空中で青白い炎を上げて燃え始め。 その青白い炎に、何かが…人の姿のようなものが映し出されてきた。これは…… 「あん? こいつは…、この鈴仙嬢ちゃんと白菜じゃあないか……?  なんぞ楽しそうに、遊んでおるぞ……?」 「…これは、鈴仙殿の…夢? どういうことだ? キュウビは鈴仙殿の夢に干渉して  いるようだが…、だがこれは、一体……?」  首をかしげる番長と、かじりつくように炎を見る坊主と。二人とも…、いや四人とも 目の前にある光景を、信じられないという目つきで見ていた。 鈴仙が今見ている夢は、キュウビが干渉している…つまりキュウビが“見させている” 夢なのだが、その中身はどんなおぞましい悪夢かと思いきや、その実正反対で…。 “まったく、こんな甘えちまってよ。永琳さんに何て言われるか……” “だめ? …だって白菜に撫でてもらうの、すごく気持ちいいんだもの……” 何と鈴仙が白菜と共に遊び、話をし…、そして幸せそのものといった様子で寄り 添って、白菜に頭を撫でられている光景があったのだ。 鈴仙も実際にそれを見ているようで、時折笑い声をこぼしたり、気持ちよさそうに 笑顔を作っていたのだが…… 「…どういうこと、なの…? キュウビがまさか、そんな優しい奴だってこと……?」 「そんなはずはないでしょ…。キュウビがそんな温情あふれる者のわけがないわ…。  これにも何か理由が……」  キュウビが見せているのは悪夢とは真逆の、恋人との楽しい時間を過ごしていると いう、おそらく誰もが見たがるような夢。こんなものをどうしてあの残虐な妖怪がと 四人が考えていたその時、炎から二人の姿が急に消えた。消えたかと思うと鈴仙が 急に目を覚ましたのだ。 「……え…? あ、あれ…? は、白菜は……? どこ…、行ったの……?」  突然のことに驚いた永琳達が声をかけたが、鈴仙の耳には入っていない様子で… 起き出すなり不安な表情で辺りを、白菜の名前を呼びながらきょろきょろとし出した。 これはまさか。四人はキュウビの意図がようやく分かったような顔をして、また実際に そういう展開になった。すなわち 「そんな…! 白菜が、帰ってきたと思ったのに…! 夢だった…、なんて…!!  また、独りぼっちなんて…、そんな……!!」 再び…、いや一層酷く泣き始めた鈴仙を見て、四人はわなわなと体を震わせた。 「なるほど、こういうこと…か! このためにあんな、“幸せに見える” 夢を…!」 「…夢は所詮、夢…。夢がどんなに愉しいものであっても、目が覚めれば  雲散霧消。むしろ夢が愉しい分、それから覚めて現実を見ると……!!」  所詮は、かりそめの喜び。 所詮は、幻。夢の世界がどんなに快楽に満ちていたと しても、一度目が覚めればあっという間に消えてなくなる。当然、そこで感じていた 幸せも。現実世界での絶望を一層深く深く感じさせる…… 散々心行くまでまやかしの幸福を味わわせておいて、一気に断ち切る。 人格破綻者のやることだが、しかし破壊としては最悪の力を持つその手法 ある者は怒りに体を震わせ、ある者は涙を目にためているその中で…… 「…ねぇ、てゐ…。どうして、なのかな……?」 「れ、鈴仙……? どうしてって、何が……」  おもむろに鈴仙が顔を上げ、傍にいたてゐに向かってぽつりと…呟いた。 今まで泣き暮れていたのが他人と話せるようになったのかと思われたが、そんな 嬉しい状況であるはずもなく。頬に乾いた涙を浮かばせたまま、憔悴しきった表情の まま、視線をあさっての方向に向けたまま…小さく小さく呟き続ける。 「分かってた、はず…なんだよね…。…あいつは、魔王軍にいたんだって……。  危険とは隣り合わせ、命を落とすことだって、決して珍しい事じゃないって……。  …何回も何回も、考えたはずなのに…、自分に言い聞かせたはず…なのに…!」  …そこまで言うと、鈴仙の顔に…乾いた涙の上に、また涙が。駆け寄る てゐが、永琳が肩を揺さぶっても全く反応を見せずに、ただただ涙をこぼし続けた。 「嫌…だよ…! 誰が…、誰がいなくなってなんて…、頼んだのよ…!?  私が…、独りぼっち、すごく怖がるの…嫌がるの、知ってるのに…!!   …酷い、よ…!! こんなになるなら、あなたとの出会いなんか、なければ…!  こんなに辛くなるなら、こんなに…苦しくなるなら………」  愛情が深かったが故に、それを失ったときの反動は人一倍のものとなり。 止まらない、止められない。鈴仙の涙は止めどなく流れ続け…… それを必死でなだめながら、てゐは怒りに震えながら顔を上げた。 「キュウビの……やつ!! どこまでやれば気が済むのよっ!!」  こんな外道を許すわけにはいかない、すぐにでも叩き潰さねばならない…  だがこの現象の大本のキュウビは、周知の通りで自身の結界の中にいる。 妖魔王の作り出す強力極まりない結界を、破る術はあるのか……。 てゐは、永琳は、視線を坊主Cの方へと向けた。だが……? 「申し訳…ありませぬ…! 未だこれに関しては、打開策が……!!」  答えは、否。キュウビそのものには対抗できるのに、その前段階の結界を破る 事が出来ない…。苦しそうな顔をしてうつむいている坊主Cらの様子が、それを 何よりも明確に物語っており…… 「何て、ことよ…!! これだけ分かってて、手が出せないなんて……!!  こんなのが続いたら、本当に、鈴仙は……ッ!!」 犯人は分かっているのに、捕まえることが出来ない。これ以上ないもどかしさで 永琳までも激高した様子で壁に拳を打ち付ける、その一方で…… ……………………………………………………………… 「…夢トイウモノハ、便利ナモノダ…。ナマジノ幻術等ヨリモ遙カニ効果的ニ  人ノ精神ヲ蝕ミ、破壊スル手段ナリ得ルノダカラナ…! カカカカッ!!」 「あ、悪魔…!! お前は…、どこまで外道になりゃ気が済むんだよ…!?」 「クカカカ!! 何ト呼バレヨウト、結構! 我ヘノ罵倒ハ最高ノ賛辞ヨ!!」  顔を青ざめさせ、しかし精一杯の罵倒をする白菜に…、キュウビはまるでそんな ものはどこ吹く風といった様子で鼻笑いをし、楽しそうに目を細めてみせた。 「…アノ兎娘ダケジャアナイ。アノ二匹ノ雌犬モ、ソシテ虫ケラ二匹モ!  コレホドノ悲シミ、アルイハ無力感ニ苦シム姿…。ソウソウ目ニカカレルモノデハナイ!  サァ、トクト見ロ! 貴様ガサッキマデ、カジリツイテイタヨウニ!!」  スクリーンに目を背けた白菜の首を噛みつくようにくわえ、無理矢理スクリーンに 向かわせ…。スクリーン上には泣き伏せる鈴仙を必死になだめる永琳とてゐの 姿が映し出されており、白菜の目からここに来て、涙がぶわっとあふれ出た。 「止メタイカ? …ナラバ、奴ラガ我ガ結界ヲ破ルコトヲ期待スルガイイ……。  …決シテアリ得ヌ夢幻ヲナ!! クーッカカカカカカカッッ!!」  “結界を破る術が完成していない” 以上、いや、完成したところで彼らがこの領域に 踏み込めるはずもない。…この上なく下卑た、黒い快感が満ちているのだろう。 完全勝利間違いなしと、キュウビは一番の高笑いをした。 あとはもはや、どちらかが衰弱死するまで存分に楽しむのみ…。その心に吐き気を 催すようなどす黒い愉悦が満ちてきた、その時だった。     「…ヌ?」  …ふいに、ガラスにひびが入るような音がどこからか聞こえてきた。この空間には そんな音を立てるようなものはないし、白菜もキュウビもそんなものは持っていない。 ならば何だとキュウビが周りを見回した、その瞬間だった。何と回りの景色…自身の 結界が、音を立ててがらがらと崩れ落ちたのだ。 「ナ、何ィィィィィィ!? 我ノ結界ガ!?」  先ほどまで絶対不可侵と自負し、絶対の自信を持っていたのに一体何事かと キュウビが柄にもなく驚愕していると、崩れた結界の向こうから現れた者が、二人……。 「流石、永琳殿の薬…。我が呪符の霊力を何倍にも高めてくれました……。  やっとここまで、こぎ着けましたぞ……」 「結界は、ぶち破った…。年貢の納め時じゃあ、キュウビ!!」 坊主Cと、削除番長! 「バ…、馬鹿ナ!? 我ノ結界ヲ破ッタノガ、貴様ラダト!? アリ得ヌ!!  貴様ラ如キノ矮小ガ、ドウシテ我ノ結界ヲ破ルコトガ出来タノダ!?」  白菜を軽く捻り倒す力を持つキュウビからしてみれば、坊主Cも削除番長も同等の 赤子同然…。彼らがどれだけ全力を出したところで、自分には対抗どころか ちょっかいをかけることすら出来ないと思っていた。 それがまさか、自分の自慢の結界を破ってきた。驚愕するキュウビを、坊主Cと 削除番長は鋭く指さした。 「ああ。確かにお前の結界はこれ以上ないくらいに強力なものだったわい。 “普通の状態” じゃったら、ワシらがどれだけ頑張っても崩せんかったろうよ…  じゃが、そうでなかったとしたら…どうじゃろうな?」 「白菜や鈴仙殿が苦しんでいる姿を見るのは、楽しかったのでしょうな…。  私たちが必死に立ち回り、しかしあなたをなかなか補足できずに焦っている様はさぞ  見物だったのでしょう。思い通りの展開になって、快感で満たされたことでしょう…。  それ即ち、あなたは悦に入った…、つまり油断していたということになる!」 「ッ!! マサカ、アレハ…! 我ノ油断ヲ誘ウタメニ、芝居ヲシテイタノカッ!」  目を見開くキュウビを前に、二人はその通りだと笑って大きく頷いて見せた。 そう。全てはキュウビを油断させるために。番長はもとより、永琳やてゐも巻き込んで 既に術式を完成させていたのを敢えて隠し、未だ未完成のフリをして……。 無力感に身を震わせ、もどかしさに壁を打っていたのも、全ては芝居。 してやられたと顔を歪めるキュウビを前に、坊主Cは尚も続ける。 「おごる平家は久しからず。油断しているのならば、ご自慢の “神格世界” にも隙が  出てくる。そんなものがあれば、いくらあなたに比べれば力の遙かに劣る我々でも  結界を破ることは難しくない…。  お分かりか、“妖魔王”!? 我らをあまり侮ってくれるなッ!!」 「グ、グヌヌヌヌヌ……ッ!!」  “混沌”に次ぐ力を持った、絶対的な存在だと思っていた自分に対してまさかここまで まとわりついて来る者がいるとは。自分のおごりが原因であるとはいえ、プライドに泥を 塗られたキュウビは仮面の奥で歯がみし、怒りに満ちたうなり声を上げたが…… 「ヌゥゥゥゥ……。………………………………。  …カカ、カカカ! クカカカカカカカカッッ!!」 …それもすぐに終わり、相変わらずの高笑いをした後に坊主らを威嚇するような 鋭い視線を浴びせた。 「カカカカ…。我ノ結界ヲ破ルトハ、貴様ラモ大シタモノダガ……、ダガ! ソレダケデ  イイ気ニナッテイルナラ、トンダオ笑イ草ダゾ! 虫ケラ共ガ!!  貴様ラハ意気揚々ト飛ビ込ンデキタガ、我ノ力ヲ知ラヌワケデハアルマイ!  貴様ラゴトキ、一瞬デ吹キ飛バシテクレルワッッ!!」 「………………!!」  そう。まだ何も終わっていないのだ。キュウビの結界は破ったが、“キュウビその もの”は未だ健在で、自分たちを憎悪の眼差しで強く睨み付けている。弱い者であれば それだけで金縛りにあっていようものだが…… 「さーて、害虫駆除! 大掃除を始めるとするかのう!」 「…かつては同じ陰陽が対抗できた。ならば私に出来ぬ道理はない!!」  この二人は、当然そんなもので臆することもなく。堂々とキュウビの方へ歩を進めて いき…。それを見たキュウビも実に楽しそうに高笑いし、赤黒い妖気を口から吹き出した。 「クカカカカ! ソレデモ向カッテクルカ! ヨカロウ!!  …神ノ力ナド遙カニ凌駕スル、我ガ妖力! ココデ存分ニ味ワウガイイ!!」 続く  さて次回からはいよいよキュウビVSミスパ二人。 以前書いた古城決戦のようなガチンコを書くつもりなので、よろしくッ!