話の造りは 「落とし上げ」 つまり最終的にはハッピーハッピー。 ただし途中、落とすところはかなり落とします(グロ無し精神要素)。 そのようなアレは困るという方は、回れ右でお願いします。 ……………………………………………………………  裏切リ者ニハ、粛正ヲ!  闘イニ敗レ、逃ゲ出シタ者−  逃走シ、女ト共ニ隠レ住ムコトヲ選ンダ者−  …獄界ノ、苦痛ヲ与エン! ……………………………………………………… 「…そいつは、本当ですか? 永琳さん……」 「言いたくはないけれど、ね。今言ったのは、本当の事よ……」  いつもは静かな、永楽亭の夜。 風に吹かれて竹藪が鳴る以外には何もない、本当に静かな永楽亭の夜。 …しかしその静かな永楽亭の夜に、不穏な気配が。 険しい顔をして話をする、白菜と永琳の姿があった。 「…最近、この辺りで見慣れない妖怪を目にすることが時々あるのよ。  それも悪さをしに来たっていうわけじゃなく、何かをかぎ回っている感じでね」 「何かを…、というと?」 「最初は、私の薬の製法でも探っているんだと思っていたわ。でも、そうじゃない  みたい。よしんばそうだったとして、私の薬は製法・材料共にかなり特殊だから  製法を知ったり薬を盗み出したところで作れるはずもないんだけれどね…、と。   いけないいけない。脱線しちゃったわね。それで…、その探っている対象って  言うのが、白菜君。どうも君のことみたいなのよね……」 「! 俺……?」  自分に探りを入れている者がいる、と聞いて白菜は一瞬驚いた顔をしたが しかしすぐに元に戻ると、どこか納得したように頷いて見せた。 「…白菜君。言いたくはないけれど、これって……」 「…まぁ、十中八九。魔王軍の連中の仕業でしょうね。俺が闘いに負けて  逃げ出して…、その粛正の追っ手が来たってことでしょう……」  そう呟く白菜の脳裏に蘇るのは、在りし日の光景。学校エリアにおいて ストーム1、なのはらとの闘いに敗れ、この世とさようならをするあと一歩の ところで、鈴仙によって命を救われ…… …その後、隠れ住むようにこの永楽亭に移り住んできたこと。  アナゴの意向はどうあれ組織として、魔王軍は必勝が常の責務と されており、白菜自身も闘いに敗れた手下達を幾度となく粛正してきた。 敗者は不要。どこに逃げても必ず追い詰める。…その信条の元に。 …ならば、自分が敗れればどうなるか? そんなものは言うまでもない。 「……まぁ、これまで散々好き勝手傍若無人にやってきたんだ。それ相応の  代償が来るのは、ハナから分かってたことか……  …でも、安心してくださいよ。永琳さん。いくら…どんな奴が来たところで  俺は絶対、自分で食い止めます。あなたや鈴仙達に危害は及ばせません。  自分のまいた種は、自分で刈り取りますから……」 「……………………………」  話す白菜の手が、きつく締められる。汗が浮かぶ。 …これまでだったら。学校エリアに来たばかりの頃の自分だったら。 あの頃の自分には、誰もいなかった。唯我独尊自分自身のみ。 故に、死も恐怖も何もなかった。魔王候補の名の下に暴れ回った。  …だが、今は違う。今はもはや、"自分の周りに誰かがいる"。 年長者として、自分に多くの良き助言をしてくれる永琳。 いたずら好きだが、自分を兄のように慕って懐いてくれる、てゐ。 そして……… 「大丈夫です。今の俺なら、死にはしません。何があっても、ね。  あいつがいるってのに死んじゃあ、それこそ死んでも死にきれない……」  白菜は天を仰いで、大きく息を吐き出し…… そのままふっと苦い笑みを浮かべながら、永琳の部屋を後にした。 …………………………………………………… 「ねぇ、白菜? 師匠に呼ばれてたみたいだけれど、何の話してたの?」 「っと! お、おいおい、鈴仙。何で俺の部屋にいるんだよ?」  ぐるぐると心中に暗雲を渦巻かせている白菜が部屋に戻ると、彼を 出迎えたの者が一人。うさぎ耳の少女…鈴仙。 白菜が部屋に入るなり彼のそばに寄り添い、耳をぴこぴこと動かしながら 白菜に問いかけ、白菜も白菜で咳払いをしながら二人で床に座り込んだ。 「ん。…まぁ、あれだ。お前との間があんまりにも見ててじれったいもの  だから、私の作った新しい薬でも使いなさいってさ……」 「…も、もう! 師匠ったら、またそんなこと言い出して……!!」  …もちろん、嘘。だけれどこれは、仕方のないこと。 白菜が鈴仙に本当のことを話せば、彼女の取るだろう行動や考えはもはや 火を見るよりも明らか。今や白菜を失うことを何よりも恐れている彼女のこと だから、白菜がそんな危険に晒されている可能性があると知れば、迎撃に出る 白菜に同行するとも言いかねないし、最悪の場合は自分一人で追っ手の 迎撃に乗り出してしまうことも……。 “俺が蒔いた、災厄の種…。そいつは俺で全部かたをつける。  まかり間違っても、どうあってもこいつには、こいつだけには……”   顔を真っ赤にして、頭からしゅうしゅうと湯気を噴き出している鈴仙を 優しく撫でながら、白菜が首を横に振った……その時だった。 「!!」  …来た。白菜はその "気配" を敏感に、瞬時に感じ取った。 そこらの斥候の発する妖気とは全く異質のそれをまとい、しかも姿を まだ見てもいないのに、異常なほどの敵意の波動が感じられる、何か。 「来やがった…か! 随分早いお出ましだな…!!」 「? どう…したの、白菜…?」  来る、来る。望まない何かが。一直線に、凄まじい速度で自分の ところに向かってくる。やってくる。  属性は無慈悲。一旦敵と認めたならば、それが誰であっても情けなど 一切かけず、一切の容赦なく冷酷非情に命を奪う妖魔の気配。 心の底では来ないことを望んでいたのに、それがこんなにも早くやってきた。 こんなにも早く、平穏が崩されようとしていた……。 「…悪いな、鈴仙。ちょっと野暮用だ。すぐ帰るから、待っててくれ」  相手の実力はもちろんまだ分かったものではないが、現段階でこれほど 強い妖力を感じさせ、また仮にも魔王候補の自分の粛正に差し向けるから には、相当な力を持つ者が来たに違いない。  …脳裏に次から次に浮かんでくる嫌な想像を必死でかき消し、しかし 表面上は平静を装って鈴仙の肩をぽんと叩き、きびすを返して部屋を 出て行こうとした、その時…… 「? 鈴、仙……?」 「………………………………」  出て行こうとした自分の腕を掴む感触が感じられたので、何かと思って 振り向いてみれば、そこにいたのはやはり鈴仙。白菜の腕を掴みながら 眉をハの字にして不安そうな表情で見つめ…、口を開いた。 「絶対、帰ってきてね…? …私…こんなところでお別れなんて、絶対に  嫌だからね……?」 「!! お、お前……、知って…たのか」  驚く白菜の言葉に、鈴仙は無言で頷いて。彼の手を掴んでいた力を 一層強くして、目を伏せながら大きく息を吐き出して呟く。 「…私ね。今まで結構長い時間を生きてきたんだけど…、こんなに楽しい  のは、初めてなんだよ? 白菜と出会えたことは、本当に……  …私の今までの人生と同じくらいに、私にとってはすごく大切なことなの…」  自身の持って生まれた、狂気を司る能力。自分の目を見た者は例外なく 狂気に囚われる、戦闘で使うには申し分のない能力。 だが、それが故に。永琳やてゐ以外に、自分と顔を合わせることが出来る 者もいなかった。友人など望むべくもなく、まして恋人など……。 永き時間を、その意味では孤独に感じていた。自分と顔を合わせることが 出来る者などいないと思っていた。  そんな矢先に出会ったのが、白菜。自身の狂気の瞳を見ても正常でいて また初めてであった異性で…。そして最終的にその白菜と暮らせることに なったときの鈴仙の感激がどれほどのものであったかは、想像に難くない。 空虚な万年よりも、満ち足りた一日。鈴仙は心から満ちていた。 それが故に 「危なくなったら、逃げて…。 絶対…死んじゃ、駄目だよ…?  …どんなに、かっこ悪くたっていい。あなたがかっこ良く死ぬことなんか  より、かっこ悪く生きててくれる方が、私にはよっぽどいい。  お願いだから、帰ってきてね……?」 「…………………………」  うさぎは、寂しいと死にます。どこかで聞いた台詞を頭に思い出して きゅっと自分に抱きついてきた鈴仙の頭を、また優しく撫で ……今度こそ、部屋を後にした。 ……………………………………………… 「……………………………」 「鈴仙、ちょっとは落ち着きなさい。そんなにうろうろしていたって  何にもならないでしょう…?」  鈴仙を窘めるように永琳は声をかけたが、彼女の耳には入っていない ようで…。おそらく自分の作ったどんな鎮静剤を使ったところで、今の鈴仙を 鎮めることは出来ないだろうが。 だからといって、今の彼女の様子を正視するには躊躇われる部分も あるわけで。永琳は愛弟子にふっと微笑みを投げかけた。 「…それにしても、あなたも変わったわよねぇ。以前は何というか、色々なことに  無関心・無感動だったのに、それが今じゃこの体たらく……。  本当に…年頃の娘に "恋" を与えると、どんな薬よりも活性化させることが  出来るのねぇ? いつもふわふわと高揚した様子で、白菜君と遊びに出て  帰ってきたときなんか、お酒を飲んでもいないのにとろけきった顔をして……」 「し、師匠! からかわないでください!!」  くすくすと楽しそうに笑いながら永琳が鈴仙をからかうと、鈴仙はまた顔を 真っ赤にして大声を上げたが…、すぐにまたしゅんと落ち込み、大きな ため息をはき出した。 「…大丈夫よ。貴女も白菜君の力は知っているでしょう? 魔王候補にまで  なった彼が、同じ魔王軍の…格下の誰を相手にしても負けると思う?  私も彼にいくつも治療の薬は渡してあるんだから、心配しないで……」 「それは、分かってます…。分かってるんですけど、でも……」  頭では、理解できる。白菜の実力も、師の薬の効力も。それらを加味して 考えれば、白菜があの世に行ってしまうような確率などゼロに等しい、と。  …でも、ゼロに等しくても、ゼロではない。日常であれば全く気にもとめない そのコンマ以下の極小の確率が、頭の中から消えて無くならない。 やはり自分もついて行けばよかった。彼と一緒に闘いに行けばよかった。 そんな考えが、後から後から噴き出してくる。心の中で引っかかりを生じ 一向に消える気配がない……。  そんな、悶々とした言いようのない不安に鈴仙が駆られていた、まさにその瞬間 …血相を変えた、顔を真っ青にしたてゐが永琳の部屋に飛び込んできた。 まさかと二人が顔を強張らせると、てゐはまさにその "まさか" を口にした。 即ち 「はくさいが…、白菜が、やられちゃったよッッッ!!」 ……………………………………………………  …そこには、DIOも咲夜もいなかった。時間を操作できる者などいなかった。 そのはずなのに。永琳も、鈴仙も。まばたきはおろか髪の一筋すらも 動かさないほどにその体を硬直させ、その状態が続いて数秒ほど……  先に硬直の解けた鈴仙が、しかし顔を真っ青にして引きつらせたまま てゐに近づき…、その肩に手を置いて、どうにか震えを抑えながら口を開いた。 「う、う、嘘…でしょ…!? あんたまた、悪戯を……」 「そんなわけ、ないだろ!! …そりゃ、私も出来るなら本当のことだとは  思いたくないよ。だけど、証拠が…あるんだ…! あいつがやられてしまった  っていう、確かな…証拠が!」  そう言っててゐが鈴仙に手渡したのは、紛れもない…、見間違えるはずも ない、白菜の制服…。ずたずたに引き裂かれ、そこにべったりと着いた血の跡を 見れば、てゐの言葉が嘘ではないと否応なしに知らされ…… 「そんな…、そんな、そんなの…、いやああああああああああああああ!!!」  ゼロに等しくても、ゼロではない…。受け入れがたい、しかし決して間違いでは ない現実を突きつけられ。鈴仙は顔を真っ白に染めた後、声を限りの絶叫を上げた……。 続く  というわけで、白菜うどんのシリアス長編。最初にも書いたけど、これからかなり 落とします。でも最後にはハッピーだからね!! あとこの話には、ニコニコRPGには出てこないキャラを敵として出すので、その 辺りを了解しておいてね!!