救済 -魔理沙- 終演
注意:前回といい今回といい、見ようによってはフラグが立っているように見える
描写もあるかもしれませんが、とりあえず新カプを誕生させるつもりはありませんので
あしからず。そして……これのどこが終演だと思われるかもしれませんが
そんなもんいいんです! ドタバタ宴会がやりたかっただけなんですから! では!

11/8:作者コメに追記追加

…………………………………

アリス事件解決…アリスと魔理沙が和解した、その少し後……

「うう、やっぱり私、不安だなぁ……」
「大丈夫だって、魔理沙。そんなに緊張しないで」
「そうだ。失敗したわけではないのだから、奴らも…特にあいつも怒る理由がない。
 万が一があっても、このDIOとアリスが同席しているのだ。楽にしろ……」
古城の応接間にて、DIOとアリスの魔理沙の三人がソファに座って話をしていた。
その話しぶりからするに誰かを待っているようだが、それが誰であるかは言うまでも
あるまい。…しばらくそうして待っていると、どうやら “来た” ようだ。

「しかし、本当なのか? アリスが完治したって……?」
「本当よぉ。でなきゃあなた達を呼ぶはずがないでしょう? くすくす……」
「う、うーん。そりゃあ嘘だなんて思っていませんけど、でも……、あ…!」
「まぁまぁ、この部屋にアリスさんがいるっていうんですから、実際に…、あ!」
水銀燈に先導されて、古城メンバーの三人が話をしながら部屋に入ってくると
三人の視線は共通して、部屋にいたアリスに集中した。

「アリスさん! 治ったんですか!?」
「アリス! お前…本当に…!?」
リョウ達三人が口々に尋ねてくると、彼女はゆっくりと頷いて答えた。

「ええ。おかげさまでね。…まぁ、悪夢の一件に関してはあなた達を蚊帳の外に
 してしまったみたいで悪いけれど、でもちゃんと理由があるの。それは……」
「いや、待て。…確かにそうだ。うっかり忘れるところだったぜ……」
しかしアリスが何か言いかけようとしたその時、彼女が治ったことに顔を
ほころばせていたリョウが、急に顔を険しくした。
「…そうだ。アリスが治ったことはいいんだが、しかし一体どういう経緯で?
 それに何で俺達を呼んでくれなかった……?」
確かに少し前まで絶望的だったアリスがいきなり完治していたとあってはリョウの
疑問も当然だと言えたが、そんな彼をDIOはとりあえず押し止めて座らせた。
「それをこれからアリスが説明しようとしていたのだろうが。落ち着け落ち着け。
 …まぁいい。このDIOが今から全部話してやるから、しばらく黙っていろ……」
かくしてDIOは口を開いて、今までの経緯を全部話した。何故彼らを呼ばなかったか
という理由、アリスの悪夢の世界に入って奮闘したこと、その後魔理沙の精神世界に
入ったこと。全てを……。

「……これで全部だ。何か言いたいことは?」
DIOは話し終えると、そのまま三人へ視線を移した。…三人のうちロックとミクは
当然と言うべきか既に納得したような顔をしていたが、やはりリョウだけは腕を
組んで、何か考えているような難しい顔をしていた。

「…フン。どうした、リョウ? まだ何か腑に落ちぬ点があるとでも言うつもりか?
 それとも貴様、まだ魔理沙のことが許せぬとでも言うつもりか……?」
万が一の事態に備えて、ザ・ワールドをいつでも出せるようにしておいてDIOが
尋ねると、対するリョウはDIOではなく、アリスの方を向いて話し出した。

「なぁ、アリス。お前は…本当に治ったのか? 悪夢もトラウマも、みんな…?」
「? ええ。もう全部きれいに浄化されたわよ……?」
アリスにとっては何を今更という感じがしなくもなかったが、思えば彼は何も
見ていなかったので、知らぬのも無理はないのだが。

「本当なんだな? 無理しているとか我慢しているとか、そういうのは……」
「何言ってるの、リョウ。あなたなら私が我慢とか無理とかしていたらすぐに
 分かるでしょ? 今の私がそんな風に……、きゃ!?」
どこか不安げに尋ねるリョウだったが、今の彼女にそんな暗い影などあるはずも
ない。アリスはどこか苦笑しながら彼に説明よろしく話をしたが、それが言い終わる
前にリョウはつっと前に出て、彼女をぐっと抱きしめた。

「…本当、良かったぜ…。お前がどうなるもんかと今まで気が気じゃなかったが…
 完治したんなら、本当に良かった。これ以上の朗報はねぇよ……」
「う、う……………」
最初はアリスも顔を赤らめて引き離そうとしていたが、しかし結局自分も彼の背中に
手を回して。…しばらく皆が黙していたが、DIOがその沈黙を取り払うべく手を叩いた。
「フン。普段ならKYと言うところだが…、まぁいい。で、どうするのだ?
 魔理沙を許すのか、それとも徹底抗戦するのか。どちらなのだ?」
緩んだ空気に、再度緊張が走る。ザ・ワールドを準備してDIOは身構えた。が

「え? 許すとか何とか……、俺はもう何も言うことなんかないぜ?」
「何ぃ!?」
…別段、状況が悪化したわけではないが、彼の思わぬ言葉にDIOは一瞬絶句した。

「…いや、許すも何も俺は…俺はアリスがまた元通りに元気になってくれりゃ、それで
 万々歳だったからな。それが叶わないならそりゃ許せねぇが、叶ったんなら魔理沙に
 どうこう言う理由なんかないぜ。…そもそも当のアリスがもう許してるのに、俺一人が
 騒いだって馬鹿らしいだけだろ? だから、まぁ…俺もアリスと同じだ。何を言うつもりも
 ない! 俺がこう言うのも何だが、つまりは許すと言うことだ! …これでいいな?」
「…りょ、リョウ……!」
最後の砦…と言うには大袈裟だったかもしれないが、とにかくリョウが魔理沙を
許す意志を見せると全員が安堵の表情を浮かべ、間髪入れずにDIOが立ち上がった。

「さて、こちらが終了したなら次に行こうか。…実は今夜、アリスの全快祝いその他
 諸々を含めて宴会を開くことになっているのだよ。ピラミッドの連中は既に会場に…
 件の飲み屋に到着して準備をしているはずだからな。我らも移動するぞ」
「な!? お、お前、そんなもんいつの間に…!? いや、考えてみりゃ当然かもな。
 …ま、いい。それならそれで早く移動するとしようぜ!」
突然のDIOの発言にリョウ達三人は一瞬驚いたようだったが、しかしすぐに気を
取り直すと、元気良く立ち上がって古城をあとにした…。

……………………………………………

「…いらっしゃいませ…、あ。お連れ様が先に来ておられますが……?」
「勿論同席だ。そいつらのところに案内してもらおうか」
もはやすっかり顔なじみになってしまったようで、ほんのわずかなやりとりで
DIOは店員の女の子に用件を伝え、彼女もそのまま案内した。

「お。DIO! 遅かったじゃねーか! こっちは既に万端だぜ!」
「すまんすまん。だが準備等ご苦労だったな。…さて、お前達も座れ座れ」
見ればとっくに準備は終わっていたと見え、待ちくたびれたのか闇サトシがDIOに
噛みついてくると、DIOはさっさと古城メンバーと魔理沙を座らせにかかったが
その中で一人、リョウは席ではなくDIOの方へ近寄るとひそひそと話し出した。

「…で、今日の音頭はどうするんだ? やっぱりいつも通りお前か? それとも…」
如何なる狙いか…とにかくリョウが尋ねると、DIOは手を横に振った。
「フン。いつもならそうするだろうが、今回は会の趣旨が趣旨だけにそうもいくまい。
 …まぁ、奴が緊張やら何やらで喋れなくなったときは手助けするつもりだがな」
「緊張……、あぁ、そうだよな……」
腕を組みながら、DIOは柄にもなく穏やかな笑みを浮かべてみせた。ここまで他人を
気遣うようになったとは、かつて傍若無人を極めた吸血鬼も変わったものである。
今更そんなこと…という感じがしなくもないが。

「まぁ、俺とお前が傍にいれば大丈夫…だよな。 じゃあ今からあいつを呼んでくるから
 お前は俺達の分も席を開けて座っておいてくれ」
「分かった分かった。こっちの心配はいいから早く行ってこい」
ひらひら手を振るDIOに見送られながら、リョウはアリスを呼びに行った。


数分後。ようやく全員が席に着いた。
「よーし、全員行き渡ったぜ。…それじゃあアリス、今日はお前が音頭を頼むぜ。
 …なーに。詰まったら俺やDIOが何とかしてやるから、怖がるな……」
「う、うん……」
リョウが参加メンバー全員に飲み物が行き渡ったのを確認して、アリスに合図すると
彼女はすっと立ち上がった。…全員の視線が集まり、思わずアリスは頭が真っ白に
なるような感覚に襲われたが、横のリョウとDIOが “安心しろ” と囁いてきたので
何とか持ち直し、咳払いをして口を開いた。

「ええと、その……。…今回の一件、皆…、本当に…ありがとう……。
 この中で、誰か一人でもいなければ…、直接私の悪夢を掃除してくれた遊戯達も
 そうだけど、古城で起こった騒動から守ってくれたDIO達も…、誰か一人でも
 いなかったら、まず上手くいかなかっただろうから…、本当に皆、ありがとう…」
「………………………」
アリスがそのまま頭を下げ、他も目礼なり軽く頭を下げるなりすると
今度はDIOが立ち上がって、彼女の肩をぽんと叩いて座らせた。

「さて、というわけで今回はアリスの全快祝いを記念しての宴だ。場合によっては誰かが
 欠けてしまう可能性もあったが、こうやって全員揃って宴が開けるのは喜ばしく思うぞ。
 …さて、そろそろ宴を始めようか。ちなみに最初に言っておくが、今日は未成年者多数と
 いうことで、酒の種類を変えてある。今日の酒は某太●望制作の仙桃酒と言って、酔いは
 すれども悪酔いはなく、一晩眠れば完全に体内で悪影響なく分解されるという代物でな。
 オワタ王公認だから安心してくれればいい。…では堅苦しいのはこの辺にして、乾杯!」
「乾杯!!」
DIOがジョッキを高々と上げると、全員が勢いよく乾杯して宴が始まった。


「わっはっはっは!! 酒が美味い、酒が美味いなぁDIOよ!」
「フン! 一仕事終えたあとの酒は格別よ!! お前ももっと飲むがいい!!」
いつものように、一杯目の乾杯しただけだというのに早速すっかり出来上がったように
肩を組んで大笑いするリョウとDIO。するとそこに参加するように三人目が現れた。

「んふ、楽しそうですね。本当に楽しそうですね?」
「こ、古泉!?」
「ふふふ。DIOさんもリョウさんも双方いい飲みっぷりじゃないですか。僕も混ぜて
 もらってよろしいでしょうか? んふふふっ……!」
「え、そ、その……」
…古泉をよく知るリョウは、即答出来ないという様子を出さざるを得なかった。
確かに彼は阿部さんほど無節操ではないが、しかし自他共に認める 「ガチホモ」 で
あり、平常時でも怪しいのに酒が絡んだら……?

「んふふ。ねぇ、いいでしょう? 僕も一人で飲むのは寂しいんですよ……」
「ほう。お前もいけそうな口だな。いいぞいいぞ。…リョウ! お前も来い!」
「んなっ!?」
…しかし彼が戸惑っている間に話は随分と進んでしまっていたようで、DIOは上機嫌で
古泉とリョウのグラスに酒を注ぎ始めた。…かつての宴会ではアリスとミク、先の
居残り食事会では言葉にアレな目に遭わされ、今度は古泉に絡みつかれるのか? 
…否。DIOは何かを企んでいるような、不敵な笑みを浮かべていた……。

10分後

「やはり、か。このDIOの洞察力も、我ながらなかなかのものだな……」
どこか冷めたような目つきのDIOが見ているその先には、茶色髪の少年の
必要以上の接近に困惑している空手着の男の姿があった……。

「や、やややめろッ! お、俺はその類の趣味はないッ! だから放せってッ!!」
空手着の男…リョウの顔色は既に青くなっているが、古泉は酒かそれとも別の要因か。
とにかく顔を赤らめて、すりすりとリョウの顔を体を触りまくっていた。
「何を言っているんです? まだまだ全然飲んでないじゃないですか…? ふふっ。
 このたくましい体、力強さの感じられる顔立ち…。ああもう、何でもっと早く僕らは
 出会えなかったんでしょう! 阿部さんがリョウさんに興味があると聞いたときには
 嫉妬を覚えたものですが、今なら分かります…! こんなの…、すごすぎますッ…!」
…古泉と酒を飲み始めてから、たった10分。リョウは早速後悔していた……。

「がが…ッ! てめぇ、DIOッ! よくも古泉を焚き付けやがったな! …放せっての!」
どこぞの軟体動物のようにしつこく絡んでくる古泉をどうにかやり過ごしつつリョウは
唸るが、DIOはやはり全くどこ吹く風で焼き肉を食らっていた。
「なに、迫る危険は他人に移し替えるのが一番なのでな。…最初はアリスにミク、次に桂で
 散々な目に遭わされてきたから、いい加減 “危険な匂いのする(機械)人間” のニオイは
 分かるようになってきたのだよ。そいつもオワタ王から固有の罪で裁ける程に “危険人間”
 であると聞いていたし、実際奴らと同じようなニオイが感じられたからもしやと思ったが
 やはりだったか、オワタ王よ……」
<その通り! 我は生体ではなく、闇サトシは守備範囲外だったから免れ得たのだろうが
  ……ピラミッドで男の下僕共が、ことごとく奴の犠牲になっていた…! 汝も危険の
  捌き方を心得たようで何よりだ。危険は矛先をそらすのが最良なり!!>
どこからか現れたオワタ王にDIOが仙桃酒を渡すと、二人はしみじみとした顔で話を始めた

「お、おいお前ら! 話なんかしてないで早く助けてくれぇぇ! と、というか古泉よォ!
 お前、DIOは駄目なのか!? あいつだって結構いい男……」
「んふふっ。勿論いい人だとは思いますけど…、僕は先にリョウさんとご一緒したいんですよ。
 さぁ、今度は二人だけで飲みませんか…? …いいのがあるんですよ? んふふっ!」
遠い目をして仙桃酒を飲みながら話し出したDIOとオワタ王に、リョウは必死に手を伸ばすが
もはや彼らからはリョウの姿も、古泉ごと視界と心の外に消えているだろう…。

一方

「ね、ねえちょっと遊戯! あれ…止めなくていいの!?」
「え? …大丈夫だよ。まぁ水銀燈は古泉君と面識がほとんど無いだろうから仕方ないけどね。
 アレが阿部さん…俺達のメンバーの一人のことなんだけど、なら即座に止めなきゃまずいけど
 彼はそこまで酷くないからな。…とは言っても一緒にトイレに入ったりしたら赤信号だから
 その時は流石に止めないとマズイけれど。…そもそもあっちのアリスさんが平然としてるだろ?
 それが何よりの証拠だよ……」
…テーブルの向かい側で、リョウが良からぬ世界に引き込まれそうな気配がして
水銀燈は慌てて遊戯に声をかけるが、彼は平然とした様子で食事に手を付けていた。

「そ、そうなの。…まぁ、あなたがそう言うんなら私が騒いでも意味ないものねぇ…。
 それじゃあ遊戯、あなたもヤクルト飲むかしらぁ? 」
「ああ、もらおうかな。……しかし最近ごたごたしてたから、こういう大騒ぎも久し振りだな。
 特にピラミッドだけじゃない、他エリア担当の面々との馬鹿騒ぎは、な…」
「ふふふ…。私もそう思ってるわぁ…。ピラミッドにも結構いい男がいるものよねぇ……」
「す、水銀燈!? いやあの俺にはゲーマーでオタクな娘がすで………」
周りの喧噪からは少し離れたような感じで静かに食事をしていた…はずが
いつの間にか周りの混沌に飲まれつつある二人。まぁこの世界で宴など開いた場合
まともさなどまず期待できない。それが証拠に……

「あ、遊戯君に水銀燈さん! 今二人だけですか、ちょうどよかったです!」
「……何が、ちょうどよかったの……かしらぁ?」
このメンバー内では暴走役の代名詞、ミクが二人の前に姿を現した……。


「ふふ。さっきそこでロックともう一人、可愛い男の子を見つけたんですよ! 見て下さい!」
「て、てめぇぇ! 誰が可愛い男の子だッ! なめたことヌカしてんじゃねぇ!」
「……さ、サトシ……あなた………?」
「……何故、そんなところに……?」
…実に嬉しそうな様子のミクの近く、足下から二人には聞き慣れた怒声が聞こえ
何かと思ってみてみると、そこにはミクに首根っこを掴まれたロックマンと闇サトシがいた。

「だぁぁ、クソが! 放しやがれ!! 放さねーと丸焼きにするぞ!!」
「うふふ。こんなにはしゃいじゃって。本当に可愛い男の子ですよ……? ハァハァ…」
必死にもがく闇サトシの抵抗もどこへやら。ミクはますます興奮したように笑い出す。

「ちっ! お、おい! ロックマンとか言ったか!? 何でオメーは抵抗しねーんだよ!?
 早くどうにかしないと、この女やばすぎるぜ!? 早く………」
ミクの醸し出すただならぬ気配に闇サトシは背筋が凍るような感じを覚え、同じく捕まって
いるロックマンに応援を求めたが…、彼はサトシは実に対照的に暗くぼそぼそと喋りだした。

「無駄だよ、そんなの…。だって君、知らないよね…? このミクさんは以前あのDIOさんをも
 脱出不可能にして捕まえたくらいなんだよ…? なのに僕らが抵抗したところで、どうやって
 逃げ出せるって言うのかな……?」
「な、何ィ!? マジかよ!? あのDIOを!?」
流石に元同僚でDIOの実力をよく知るだけに、今の言葉で闇サトシは一瞬で凍り付き
同時に何故ロックマンがこんなに無抵抗なのか、嫌という程理解できてしまった……。

「ねぇお二人さん? どっちが可愛いと思います? 私としてはロックも勿論良いんですけど
 こっちの新顔の闇サトシ君も、見てると煙吹いちゃうくらいに可愛くて可愛くて……!」
「………………………………」
新しい獲物が見つかったのと相当酒が入っているためか、彼女は機械だというのに
息を荒げて、二人をまるで猫のように首をつまんで遊戯達の前にずいっと突き出してきた。

「正直、そのまま煙吹いて壊れてほしいって思うのは俺だけか……?」
「…いや、普段はともかくとして今に限って言えば、僕も激しく同意するよ……」
その手の中にいる二人は、今や比喩でなく借りてきた猫のように縮こまっており、このまま
凶悪な捕食獣に食い散らかされるのかと絶望した表情を浮かべた、その時

「…駄目ですよ、初音さん。悪戯もほどほどにしないと……」
「! あなた……は!」
いつの間にそこにいたのか、またどこから取り出したのか、真っ赤な顔をした言葉が
ミクの横に立って、愛刀をぴたりと首筋に当てていた。



「…これは、どういうつもりですか? 私の狩りを邪魔するんですか……?」
「狩りって……、オイオイ」
闇サトシがミクの言葉に呆れる一方、二人はばちばちとにらみ合っていた。

「邪魔も何も、嫌がる人を無理矢理いいようにしてしまうなんてのはいけませんよ?
 そんなことをしたら初音さんは、嫌がる誠君を無理矢理引き込んだ西園寺さんと
 同じになってしまうんですから……」
「西園寺さん……? …まぁ、そんな人のことは知りませんけど、いずれにしても
 食事の邪魔をされて黙っているほど、私は人間が出来ていませんよ……?」
「…と言うより、そもそも人間じゃないんですけどね……」
…ロックマンのツッコミをよそに、ミクは言葉の刀に対抗するようにネギを取り出すと
そのまま構えて見せ、言葉も臨戦態勢と刀を構えた。

「お、おいおい。まさかこんなところでチャンバラ始めるつもりか!?」
「み、ミクさんも言葉さんも抑えて……」
「ちょっとちょっと! 二人とも凍らせるわよッ!?」
「また小規模のマインド・クラッシュの出番か……?」
ロックマンと闇サトシはもとより、傍で見ていた…見させられていた遊戯と水銀燈も
何とか二人を押しとどめようとするが、狩人の目になった彼女らには右から左。
かくしてそれぞれネギと刀を振りかぶり、火花を散らすかと思った刹那。

「……まぁ、その辺にしておけ。宴の席で争いなどするな……」
「お、おお、DIO……」
おそらく時を止めたのだろう。悠然と、似合いもしないのに目をきらりと光らせて
DIOが二人の間に割り込んでネギと刀を受け止めた……が
「いい女がこんなものを振り回して暴れ……ぐぉッ!!?」
その直後、ネギと刀の峰のフルスイングがDIOの顔面にたたき込まれた。

“たとえ殺し合いをしている猛獣同士でも、邪魔が入れば協力して排除する”
…吹き飛ばされていくDIOの脳裏には、どこかの格闘漫画で見た台詞が
うっすらと浮かんでいた……。


「さぁリョウさん、いい加減かん……、もふぅぅっ!?」
「た、助かったぜ! この気に脱出を…!」
…吹き飛ばされたDIOがリョウと絡みついていた古泉に直撃して、両者仲良く
ピヨピヨと気絶、リョウが何と抜け出した一方では、先程二人揃ってDIOを
ホームランした言葉とミクがまたにらみ合いをしていた。

「く、くっ! DIOの安否よりも、今はこっちの方が……!」
「あ、ああ……。もうダメだ……!」
「…! いよいよこなゆきを放つときが来たかしらぁ……?」
「くっ! やりたくはないが、仕方がないか……!」
もはや絶望しかないという表情を浮かべる闇サトシらを前に、言葉とミクは何とも
形容しがたいオーラを醸し出して一歩一歩距離を縮めていき……、遂にお互いの
制空権が触れ合い、今度こそ最終戦争か! と思われたが

「…言葉さん、あなたなかなかやるじゃないですか! 痺れましたよ!」
「初音さんこそ、よくネギであのDIOさんの巨体を吹き飛ばせましたね? 歌手と
 してだけじゃなく、こっち方面の才能もあるんじゃないですか?」

「へ……?」
「こ、これは……?」 
…先程のDIOの乱入が結果として功を成したのか、とにかく周りの四人の想像とは
裏腹に、何と女性二人は刀とネギを降ろして握手し合った。

「ふふふっ。私は歌の他に踊りも出来るんですけど、その踊りを応用したら
 あんなことも出来るようになったんですよ! 言葉さんは、あれはどうやって?」
「わぁ、すごいですね初音さん! 私はですね、居合いを習っているんです!
 本当ならあんな使い方は出来ないんですが、色々裏技を駆使しまして……」


「……なんか、友情が芽生えた……のか?」
「そうみたい……だね」
先程までの殺伐とした空気はどこへやら、二人がすっかり女の子らしくきゃあきゃあと
笑いながら話を始め、四人もやれやれと安堵すると、背後からぬっと影が現れた。
「…おい、お前ら! 何ぼやぼやしてんだ! 今のうちに逃げるぞ!」
「あ、リョウさん! …そうですね! またミクさんが復活しないうちに…!」
「今度巻き込まれたら、命の保証はねぇ! 退散だ…!」
「ね、ねぇ遊戯! 私たちはどうするの!?」
「…あの二人の行動からするに、今度は俺達が標的になってもおかしくない!
 ここは一旦、彼らと一緒に場所を移そう!」
かくして四人はリョウと一緒に捕食者達がまた覚醒する前に、気付かれぬよう
そそくさとその場を後にした……。


「やれやれ。一時はどうなることかと思いましたよ……」
「まったくだ。あの二人が酒を飲むとああなるなんて、初めて知ったよ……」
ミクと言葉から少し離れた場所に腰を下ろすと、リョウ達はやれやれとため息をついた。

「はぁ…、…ところでロックよ。このボーズは一体何者だ?」
…リョウにボーズと呼ばれたことに、ご立腹と闇サトシが思わず青筋を浮かべた。
「ど、どいつもこいつも俺をガキ扱いしやがって……! 俺はボーズでもボーヤでも
 ガキでもねぇ! ちゃんと闇サトシって名前があんだ! 覚えておきやがれッ!!」
「! 闇サトシ……だって…?」
…そうやってむきになる故に子供扱いされるのだと言えなくもないが、しかしとにかく
「闇サトシ」 の名前を聞いた途端、リョウがぴくりと眉を動かした。

「な、何だよ? そもそも俺、あんたのこと知らねぇぞ……?」
「ロックは別としても、遊戯に水銀燈に…ははっ。こいつは良い偶然だぜ…!」
いったい何なんだと闇サトシは怪訝そうな顔をしたが、そんな彼をよそにリョウは
周りにいるメンバーに目をやると、突然嬉しそうに笑い出した。

「このメンバー……、あ、そうか。ひょっとして……」
「そうだよ。魔理沙とは既に話はしたんだが、お前達とは出来てなかったからな。
 …聞いた話だと、お前達がその…アリスの悪夢を吹き飛ばしてくれたんだって?
 はは…。いや、俺が言うのも変に思えるかもしれないが、ありがとうよ……。
 …この通り、お前達には感謝してる……」
遊戯が何かに気づいたような顔をすると、リョウはその通りだと今度はどこか
照れくさそうな風になり、そのままテーブルに手をついて三人に頭を下げた。

「は、はい? …な、なぁ水銀燈。この兄ちゃん一体何者なんだ……?」
リョウが頭を下げた意味をロックマンと遊戯、水銀燈は当然理解していたが
ただ一人闇サトシにとっては思わぬ展開で、傍の水銀燈に焦り気味に尋ねると
彼女はくすくすと面白そうに笑いながら闇サトシに耳打ちした。

「焦らないの、お馬鹿さぁん。…で、彼だけどね。名前をリョウって言う空手家で
 あのアリスの彼氏ちゃんなのよぉ。…ふふっ。だからあんな頭下げてまで私達に
 わざわざお礼なんか言う理由が分かるでしょう? まったく、律儀なのよねぇ…」
「! あー、成る程成る程。DIOから聞いてた凄腕の空手家ってのはこの兄ちゃんの
 ことで、あのアリスの彼氏か…。合点がいったぜ……」
ようやく状況が飲み込めたようで、闇サトシは何度も首を縦に振る。一方のリョウも
頭を上げると、それぞれグラスに仙桃酒を注いで回った。
「いやはや、何かお礼を…といきたいところだが、生憎そんな余裕がないもんでな…」
「そんな、水くさいな。仲間なんだから助けるのは当然のことで……」
言いにくそうに苦笑するリョウを前に、遊戯が丁寧に固辞した…その時。

「お礼? そりゃあいいな。そういやまだ何ももらってなかったからな……」
「? サトシ……?」
遊戯が思わず声の方へ振り向くと、闇サトシはにやにやと笑ってリョウを見ていた。

「い、いや聞いてたろ? 礼をしたいのは山々だが、そんな余裕がないと……」
サトシの発言にリョウは驚いた顔をしたが、対するサトシはちちちと指を横に振る。
「なーに。モノや金なんざいらねぇのよ。ちょっと協力してほしいことがあってな…。
 実は俺、新しく格闘系のポケモンを育てようと思ってんだが、トレーナーとして
 素質のある奴を育てていきたいんだな。だけど、俺は格闘技はド素人だから格闘
 ポケモンを見てもどいつが素質があるのか分からねぇんだ。また分かったとしても
 その後の基礎体力だとか打拳蹴撃の基礎訓練も、何していいかこれまたまるで
 分からねぇ。そこで……」
「…つまり、俺にその辺の世話をしてくれということか……?」
そういうことかとリョウが尋ねると、闇サトシは目を閉じて笑みを浮かべながら頷いた。

「そうなるかね。…さっきもちょろっと言ったが、DIOからあんたはかなりの腕の
 格闘家だって聞いてるからな。正直結構期待してたりするんだが、いいか?」
「そんな願いなら、お安いご用だと言わざるを得ないぜ!!」
「よっしゃ! それじゃあ早速見てくれねぇか? とりあえず今は10匹ほど……」
正にこれぞ自分の領分。リョウが申し出を快諾すると、闇サトシは年相応にはしゃいだ
嬉しそうな様子でボールからモンスターを呼びだしていた。

「あらあら。あーんなに喜んじゃって。色々大人顔負けにやってるけど、やっぱり
 10歳は10歳なのねぇ……。ふふふ……」
「あはは。何か楽しそうですね! 僕も混ざってこようかな……?」
「リョウさんも面倒見良いからな。あいつにとっても良い兄貴分になってくれるさ…」
…端から見れば親が子供を見るような…、実際には当然違うのだが、とにかく
そんな優しさの感じられる目つきで、遊戯達はリョウ達二人のやりとりを眺めていた。

………………………………

「はー…。しっかしまぁ、お前んとこの古城パーティもすごいもんだな? 特にミク
 なんて、あれで大丈夫なのか? 見てるだけで恐かったんだが……」
「大丈夫よ。これでも今日は皆比較的穏やかなの。 いつもならミクだけじゃなくて
 DIOとリョウが加わるからもう大変。まさしくどんちゃん騒ぎになるわけよ……」
一連の大騒ぎからは少し距離を置いた席で、アリスは魔理沙と一緒に食事をしていた。
…確かに今日の宴は、その意味では穏やかだった。一時期は決戦しそうだったミクは
今や言葉とのお喋りに夢中になっているし、リョウも闇サトシと…ロックマンを交えて
格闘ポケモンの選考会をしている。DIOは…と言えば、さきほどぶつかった古泉に
絡みつかれていた。水銀燈やオワタ王が引き剥がそうとしているが無駄だろう。

「…私が言えた口じゃないけど、本当に混沌としたメンバーだよな……」
魔理沙が仙桃酒を含みながら呟くと、横のアリスはふふっと微笑んで口を開いた。
「そうよね。…だけど今、私たちがまたこうやって一緒に食事が出来るようになった
 のも、他ならぬ彼らのおかげなのよね……」
「……ああ。その通りだな……」
そう呟いた魔理沙の…、アリスの両名の脳裏に浮かぶは、今まで解決に向けて
その “混沌とした” 仲間たちが奔走してきた数々の光景……。

……………………………………………………………

…普通ならば見限られ、白い目で睨らまれていてもまったくおかしくはなかったのに
そんなことを全くせずに、逆に関係の修復を提起してくれた。

…自棄になって姿をくらまそうとしていた自分を全力で受け止め、更にはあるか
ないかも分からないのに、自分の傷を治す薬を広い城内をしらみ潰しに探してくれ
ついには絶望視されていた顔の傷を、ほぼ完全に治してくれた。

…一度入ったが最後全部浄化するまで出られない、失敗は死に繋がると言うのに
何を恐れることもなく悪夢の世界に入ることを決意、あるいは本来なら自分一人で
浄化しなければならなかったところを、一緒に浄化することを手伝ってくれた。

…悪夢の世界で我を見失った自分を呼び戻し、叱咤激励してくれた。あるいは
彼らが手を出せなかった第二戦でも、後ろにいてくれた彼らの存在に助けられた。

……………………………………………………………

「…以前にも言ったんだけどさ。…まぁ、私が言えたことじゃ決してないんだけれど
 仮にこいつがこのニコニコ世界で起こってなかったら、確実にBADENDだったよな…」
陰陽師一行の自分たちだけではなく、かつては敵同士だったミスパの力も合わせて
ようやく勝ち取った、誰の苦しみもない最良の結果。魔理沙はふっと息をもらした。

「まったくね。本当にどいつもこいつも仲間思いというか、すごいお人好しよ。ふふ…。
 勿論あんなことしてくれたあなたは大馬鹿だけど、でも終わりよければ何とやら。
 …おかげでみんなの仲が一層深まったから、それは良しとしないとね」
そういうアリスは、目の前のどんちゃん騒ぎに目をやる。…お互い何かしら接点は
あったのだから、何はなくともこういう展開になることはあり得ただろうが、しかし
その場合、ここまで急速に深く親密にはなり得なかっただろう。


「ふふふ。でもやっぱりそんな素晴らしい仲間の仲でも、私にとっては魔理沙、あなたが
 一番の仲間で…、あなたとまたこうやって仲良くやれるのがすごく嬉しいのよね。
 一緒に魔法の研究したり、あちこち飛び回ったり、…ふふ。もう今から楽しみよ……」
「…アリス……」
アリスの呟きに魔理沙が反応すると、アリスは仙桃酒を二つのグラスに注いで
一つを自分に、一つを魔理沙に差し出してにこりと笑った。

「…これからもよろしくね。私の最高のお仲間さん?」
「…ああ! こちらこそよろしく……だぜ!」
二人はグラスを手に取ると、チンと空中で合わせて乾杯した。


終焉
斜刺
http://2nd.geocities.jp/e_youjian/ld-rutubo
2008年11月08日(土) 16時56分56秒 公開
この作品の著作権は斜刺さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
さて、長らくお付き合いいただきありがとうございました! ここだけの話で言えば、実は
最初この魔理沙救済シリーズは作るつもりはなかったのです。ただアリス救済ルートを
造っておいて魔理沙のそれはないってのはアレだと思い、考えたら出来たわけです。

最初のプロットはもっと動きのないモロ治療ものだったんですが、あまりにつまらんので
もっとニコニコRPGらしいものはと考えていたら、ああいう精神世界ものになったのです。
使用キャラは極力古城色を排除しました。いやあいつら好きなんですけど、あんまり古城
ばかりにこだわると世界が狭くなるので、違うのを使うかと思ったところ物語の性質上
遊戯が必要になってきたので、彼が属しているピラミッド組に焦点が当たりました。

あと皆さん色々な意味で注目?の「魔理沙地獄ルート 通称Marisa Must Die!」ですが
どうもこの流れから行くと、ここへの掲載はやめておいた方が良さそうですな。
然るに掲載はこちとらのサイトの小説コーナーのみにしておきますので、ご安心をば(?)

さてこれからは、まずはまだ終わらせていない話を終わらせるのが先決で…、でも
どれから手を付けよう。どれでもいけるので要望などあれば優先するつもりですが。
(ちなみに次はリョウアリ話なので、それ以降の話です)

追記:さて、何やら上がっているので書いておきますか。

ネタバレするのが嫌だったので書くのは控えていたのですが、一旦
ここで区切ったこの話。扱いとしては別の話で魔理沙が今まで盗んだ本を
返しに行ったり謝ったりする、所謂「残務処理」の話を予定していまして…
そこで当事者の“二名”(+α)と深く話をさせるつもりだったので、ここでは
あっさりと終わらせたのですがね。
まぁ「ここで終了」等と書いたこちらもこちらですが。お騒がせしました…


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追記:
場違いな議論が展開されており、作者から削除依頼が届いていたため、
コメントを一部削除しました。

点数のみ、差し引きして元のままになるようにしておきました。
-20 MAKIO@SS管理 ■2008-11-17 00:48:49 220.109.139.203
お酒が入ると皆人が変わるんですね、わかります。w

しかし最後まで本編の主人公が出てこなかったw
ちょっと期待してたけど、場違いもいいとこだものね。仕方ないね。

地獄ルートを読む勇気は俺にはとてもない…orz
50 MAKIO@SS管理 ■2008-11-10 19:05:07 220.109.139.203
話が話だけに好き嫌いは出るのは仕方ないかと。
私はよかったと思います。

地獄ルートについてはこちらに出して欲しいです。
皆が反対するから出さない、ではそもそもこのシリーズを書いた意味があるのだろうかと思います。
30 名無し ■2008-11-09 00:55:40 58.91.32.61
元々SS板での魔理沙の扱いは良いとは言えない
ではそういう扱いを受けるのは魔理沙が外道キャラだからなのか?否、魔理沙を外道キャラとするなら東方キャラはみんな外道になる
何にしても、ただでさえそういう扱い受けてる彼女にこれ以上の苦痛は可哀想すぎると感じるので、地獄ルートの投下は勘弁していただきたいと考えてます
30 名無し ■2008-11-07 23:25:34 59.135.39.139
終わったか・・・
今日、ケムール人に首を絞められる悪夢を見た私ですが、魔理沙たち助けてくれないかなぁw

サトシの闇が古泉に移ったと言う事にしておくかな?
カオスの前ではシリアスも感動も吹き飛ぶと言う事を実感いたしましたw

投下されたら見ますけども・・・正直斜刺さんのサイトで見たいなぁ
50 暮雨 ■2008-11-07 19:20:30 119.30.213.4
オワタ、すべてが終わった…。
古泉のキモさが異常すぎるwwwwていうか闇サトシ、お前絶対普通のサトシだろw
カオスすぎて魔理沙とアリスの事失念してましたサーセンw

…個人的な意見としては、救済シリーズと混合した場合驚異的な精神的破壊力を生み出すと思われる地獄ルートの投稿は、…控えた方がいいと思っています。
50 名無しと呼んでください ■2008-11-07 18:43:12 221.36.140.3
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