ニコニコRPG 創作小説 時期:16話〜17話の話の幕間 「メカ千早外伝」 ・・・ この世界にはかつて、空中に栄える空中国家があった。 だが栄華を極めると共に、全ての人々は地上へ降り立つ。 そして、城と高度な機械技術だけが空に残された。 その城の周りは非常に厚い大気の壁に覆われ、 幾千年もの間、人々の目に着くことは無かった。 突然の来訪者が訪れるまでは。 ・・・ EARTH DEFENSE FORCE、通称EDF。 陰陽師、矢部野ピコ麻呂を筆頭とするこの特殊戦闘団は、 自らの野望を成就させんとし、反旗を翻して 空中城ラピュタへ向かったかつての上司、ムスカ大佐を追い詰めた。 彼が機動させた戦術ロボット兵器を相手に激しい戦闘を続ける中、 突如として激しい光が辺りを包み込み、ロボット兵器は動きを止める。 その後、ムスカ大佐は行方不明。 激しい光の影響か、空中城の外壁が崩れ落ちたため、 共に眼下の海へと落下したと考えられる。 そして……。 彼らEDFは、最後の敵である魔王との戦いへ赴く。 ・・・ EDFのハートマン軍曹が、他メンバーへ収集の号令をかける。 この特殊戦闘団はベテランの老兵もいれば、 まだ年若い学生、さらにロボットまで所属しているという、極めて特殊な部隊であった。 「いよいよクソったれの魔王をぶちのめす時が来た。 これより俺とストーム1、ピコ麻呂、琴姫、涼宮でブリーフィングを行う。 それまで各自、自由にリラックスするように。 俺が号令をかけたら、ラピュタのてっぺんだろうが、 海の底だろうが5秒で俺のところへ来い。 わかったか?わかったら返事はどうした!?」 全員が大声でサー、イエッサーと返事をし、 各々武器の整備や技の訓練などを始めた。 長い間追い続けた宿敵との戦いだけあって、皆気合が入る。 「あの、ロック。」 水色の長いふたつおさげを持った女性型ロボット、 ボーカロイドのミクが、青い体を持った男性型ロボット、ロックマンに話しかけた。 「ミクさん、疲れてない?大丈夫?」 ロックは家庭用から戦闘用に改造されたロボットだ。 多少の戦闘で再起不能になったりはしない。 だが、歌を歌う、ということが目的のボーカロイドであるミクは違う。 戦闘用ではないし、味方の支援に徹することがほとんどであった。 だからロックはミクの体を気遣い、ラピュタに突入してからは 各メンバーが分散した状態だったため、彼はミクを守りながら戦って来た。 「ロックこそ……あ、そうだ、お外に出てみませんか? ロックって太陽光がエネルギーなんですよね。 だから、さっきの戦闘で消耗したエネルギー、回復できるかもしれません。」 「そうだね、まだ時間はあるみたいだし。 ああ、そういえば戦闘ばかりでラピュタの綺麗な風景を見て無かったな。」 そう言ってロックは、庭園に向かって行った。 そして、その後をミクがついて行く。 ミクは、まだ妖怪や敵のロボットが残っていると一人じゃ危ないから、と言った。 庭園はムスカらと戦った広間のすぐ上にあり、階段を昇ればすぐである。 途中、同じEDFの仲間であるスパイダーマやゴッドマンが 見張りについているのが見えた。 「すごい……。」 庭園に昇ったロックは、感嘆の声を上げた。 非常時ということもあり、ゆっくりと見れなかった絶景。 今もそうゆっくりとした状況でも無いが、それでも いくらか心に余裕がある状態で見たこの景色は素晴らしかった。 ミクもしばしの間、その光景に目を奪われていたが、 庭園の横にある、内部要塞へと繋がっている通路を見つけた。 その通路には、さっきまで戦っていたロボット兵器の姿が見える。 「ロック……。」 「大丈夫、もう動かないみたいだ。」 そう言いながら、ロックは通路に近づいて行った。 そして通路の奥に、何かを見つけると、突然走り出した。 「あ、ど、どうしたんですか!?」 「大変だ!」 「え?」 「女の子が倒れてる!」 通路の脇には、無数のロボット兵器が格納されていた。 背中に動力部と直結されるエネルギーパイプをつけ、 常にエネルギーが切れないようになっている。 命令一つでいつでも動き出せるのだろう。ムスカがそうしたように。 規則的に並び立つ、同じ体を持った兵器。 だが、一体だけ異なる体を持つロボットが居た。 それがロックの見つけた女性型ロボットであった。 「これは……エネルギーパイプが切断されている? 大変だ、このロボットはもうすぐ機能停止してしまう!」 「どうして、この子だけ?」 「きっとさっきの不思議な光の影響だ。 他の体が大きいロボット兵器は、体が頑丈だから、 光の衝撃で大きなエネルギーパイプが切れずに済んだ。 でもこの子の場合は体が小さいから、 他のロボットよりパイプが小さい、そのせいだと思う。」 この女性型ロボットは、小柄のミクに近いスレンダーな体系をしており、 激しい衝撃には耐えられそうにないボディだった。 頭部にはヘッドマウントディスプレイを装着しており、 目元が隠れていて表情が読み取れない。 「僕のE缶で応急処置をしよう。ミクさん、明るい場所へ、 そこの庭園に運ぼう。ほっとけない。」 「はい!」 機能停止とは、ロボットにとって死を意味する。 自らがロボットであるロックとミクにとって、 絶対に見過ごすことが出来ない状態であった。 ・・・ 彼女は暗闇の中にいた。 つい先日まで、ステージでみんなに囲まれていた気がする。 つい先日まで、歌を歌っていた気がする。 長い長い時間が過ぎた。 永遠とも思える時間の中、それは来た。 閃光が彼女を包み込み、そして……。 ・・・ 「あ……!」 「良かった、気がついた?」 女性型ロボットが、小さな起動音を立てながら、ゆっくり体を起こした。 そして、困惑したほうに周りを見渡す。 「ここは……?」 ミクが落ち着かせるために、彼女の手をにぎって話しかけた。 「ラピュタっていう空飛ぶお城なんですけど……。 あなたは、ここで造られたロボットなんですか? あ、私ミクっていいます。」 「僕はロックです。」 「……私は型式番号725578−15 メカニカルボーカロイド、千早。 あなた方が私を起動させたのですか?」 「起動……というよりは、え〜と、メカ千早さん? あなたが倒れていたので、僕のエネルギー回復装置で応急処置をしました。」 「そう……。」 「わぁ!メカ千早さん、あなたもボーカロイドなんですか!」 同じボーカロイドである、ミクがはしゃぐ。 こんな場所で同型の機体に巡り合えるとは思っていなかっただろう。 「あなたも……? それより、ここは本当にラピュタなのですか? 私は確かにラピュタの技師様によって製作されたロボットです。 今、太陽暦何年なのでしょうか?」 幾千の時間を越えて目覚めたメカ千早にとって、 この寂れた城がラピュタだとは、とても信じることは出来ないだろう。 しかし、時の流れは真実だった。 ロックはラピュタが何千年も前に人がいなくなった城という ピコ麻呂たちの話を思い出し、心苦しくも、それを伝えた。 「なん……ぜん……ねん……?」 「はい……植物の根があちこちに這ってて、 すごく長い時間が過ぎたんだと思います。」 「嘘よ……。そうだわ、視認識グラフィックスモニターが故障してるだけ。 技師様に頼んで修理してもらわないと。」 ロックとミクは黙り込んでしまった。 もし、自分たちに同じことが起きたら? もし、いつものように眠りにつき、目覚めたら誰もいない世界になっていたら? 高性能なロボットほど、長い時間を過ごすことが出来る。 人間より遥かに長い時間を。 だが長く生きられるだけなど、苦痛でしかなかった。 「嘘よ……嘘よ……嘘よ!」 立ち上がり、庭園の岸壁に向かってメカ千早は駆け出した。 「ダメだ、メカ千早さん! 腹部に接続したE缶が外れてしまうと、 エネルギーが漏れて危険な状態になってしまう!」 メカ千早が岸壁の前で立ち止まり、 眼下に見える荒廃したラピュタの街並みを見つめる。 「みんな……技師様……私は、私は…… これから、誰のために歌えば!? ひとりぼっちで私はどうすれば!? うッ……うううう……うわあああああああ!!!!」 メカ千早が慟哭の泣き声を上げ、 ヘッドマウントディスプレイの下にある瞳から、 レンズ洗浄用の冷却液が漏れる。 これはロボットの持つ自立思考回路がオーバーヒートを起こし、 熱した頭部を急速に冷却するために起きる現象。 つまり、涙であった。 ・・・ メカ千早は庭園の奥、巨大な樹木が並ぶ場所へ足を踏み入れていた。 ロックとミクも一緒だ。 少しでも、かつての住民から彼女に向けてのメッセージが無いか 探索することにしたのだ。 しかし、ロックとミクはいつ、ハートマンに呼ばれて 魔王への戦いに行くかわからない。 あまり長い時間は一緒にいられないのは確実だった。 ミクが、何かを見つけた。 それは、コケが体中こびりついて緑色に変色した、 すでに機能を停止したロボット兵器だった。 そして、その横にはロボット兵器と同じくらい大きさの石版が。 何か文字が刻んである。 「私が寝ていた通路にもいたロボットですね。 可哀想に、こんなにコケがついてしまって……。」 「メカ千早さんは、彼らのことを知っているんですか?」 「いいえ。」 「え……知らないですか?」 ロックとミクにとって、その返事は意外だった。 長い間一緒にいたのだから、面識があると思っていたのだ。 「私は毎日、ラピュタ王城のステージで歌っていました。 毎晩のように、人々は踊り、祭りがありました。 そう、それは昨日までの出来事のように……記憶しています。 しかし、その時代のロボットは私だけだったんです。」 メカ千早が石版に目をやる。 ロックとミクには、石版に刻んである文字が読めなかった。 だが、メカ千早には読めるようだ。 「解析します。 …………これは…… …………そんな……そんなことが。」 うなだれたメカ千早を、ミクが支えた。 「何て書いたあったんですか?」 メカ千早は石版の内容をロックとミクに伝えた。 ラピュタはかつて栄華を誇る大きな国であったこと。 毎日のようにお祭り騒ぎがあったこと。 ここまでは知っていることであった。 問題なのはここからであった。 ある技術者が、軍事目的のロボット兵器をつくりだしたこと。 そのロボット兵器の性能に恐怖を抱いた他の国が反乱を起こし、 長い長い戦争が始まったこと。 そしてその戦争は、ラピュタの技術者たちが産み出した、 禁断の超兵器の一撃の下、終結したこと。 今後、戦争が起こらないようにラピュタの人間は その技術力の全てを捨てて地上に降り去ったこと。 以上だった。 脇にそびえ立つこのロボット兵器は、その戦争で 大量に量産されたものであった。 メカ千早は、戦闘能力を持たなかったために 戦時中、起動されずにずっと永眠していたのだ。 「あら、まだ何か……。」 石版の端にほうに、小さな字で何かが彫ってあった。 「……!!」 メカ千早は息を飲んだ。 それは彼女へのメッセージだった。 千早へ。もしも君が再び起動してこの石版を読んだなら。 もう我々は君の姿を見ることが出来ない、だからここにメッセージを残す。 ボーカロイドとして、戦争によって傷つき、残された人々に希望を与えて欲しい。 石版によりかかり、再び彼女の瞳のレンズから涙がこぼれた。 「技師様……技師様……うぅぅ……。 私は、私は……。」 ロックとミクが、不意に後ろを振り向いた。遅れてメカ千早が。 ロボット兵器が、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来た。 「まだ動いているロボットがいたのか!?」 ロックがバスターを構え、照準をつける。 しかし、ミクがそれを止めた。 「待って下さい、様子が……。」 ロボット兵器は、カシャ、カシャと体を揺らしながら まっすぐに石版に向かって歩いて行った。 敵意は感じられない。 その長い腕には、小さな一輪の花が握られていた。 そして、石版の前に立つと、その花を備えた。 よく見ると、今まで何度か備えられたのであろう花が何輪も置いてあった。 立ち去ろうとするロボット兵器の腕に、メカ千早が抱きつく。 「待って、ねぇ待って!あなた、誰に造られたの? 技師様は?名前は?ねぇ!」 ロボット兵器は、言語を話す機能を持って無い。 しかし、無骨なカメラアイでメカ千早の姿を捉えると、 片方の手でメカ千早の濡れた頬をそっと撫でた。 メカ千早があっけに取られていると、ロボット兵器は再び森の奥へと ゆっくりした動きで去っていった。 「彼らは……メカ千早さんの弟なんですね。」 「弟?」 「ええ。メカ千早さんの後に造られたのなら、 きっと弟ですよ。それに優しいです。」 ロックたちを襲ったロボット兵器はムスカの命令で動かされていただけに過ぎない。 今のロボット兵器の動きは、彼らの自立思考が優しさで満ちている証拠であった。 「私の……弟……。」 メカ千早は、ヘッドマウントディスプレイを取り外した。 やや幼いが、端整な顔立ちが美しく、意思の強さが感じられる瞳をしていた。 そして、石版と緑に覆われて機能を停止したロボット兵器に体を向ける。 「技師様、私はあなたの遺言に従います。 戦争によって傷ついた、私の弟たちのために、歌います。」 その歌はすこし切なげで儚いが、未来への希望を感じさせる歌。 さらにミクがメカ千早の横に立ち、二人で歌った。 ロックはその二人の美しい姿に、しばしの間見惚れた。 生い茂る樹木と樹木の間に、美しい歌声が響き渡る。 ・・・ ロックの通信機能に、ハートマンから通信が入った。 魔王討伐の準備が整ったため、至急集合されたし、とのことだ。 「ロックさん、ミクさん、お別れみたいですね。」 「メカ千早さん、私たちと一緒に来ませんか? みんなすごく優しくて、楽しいんです。」 「そうだ、メカ千早さん、そのエネルギーパイプも EDFの本部に行けばきっと完全に治してもらえるはずです。 僕のE缶だけだと……。」 「ありがとうございます。ですが……。」 「E缶のエネルギーは何年も持ちません。 このままだと……。」 メカ千早は、E缶によって応急処置を受けていた自分の動力炉が もう長くないことは、察していた。 「私の体は造ってくれた技師様にしか解明できないでしょう。 それに、弟たちの傍を離れるわけにはいきません。」 「そんな……。」 「あなたたちと会えて、本当に良かったです。」 ロボットの死地は、いつ、どこになるかわからない。 もしかすると、ロックやミクも、次にまみえるであろう 魔王の手によって、破壊されてしまうかもしれない。 メカ千早は自分の最後の場所を、この森に選んだ。 ロックとミクに、それを止める権利はきっと無いのだろう。 「必ず、また会いに来ます。 全てが終わった、そのときに。」 「また一緒に歌いましょう。今度は私の妹や弟も連れてきます。 だから、そのときまで……。」 「ええ、会いましょう。 そしてさようなら、ありがとう……。」 ロックとミクは、魔王との戦いに向かって ハートマンたちの元へと駆け出した。 メカ千早は彼らが見えなくなるまで見届けると、 振り返り石版に向かった。 森の中に、再び歌声が響いた。                         −メカ千早外伝 END−