(この人、なんて強さだ……!)  チャージショットでナイフを破壊しながらロックマンは思った。  奥へと進むロックマンたちの前に立ちはだかったミステリアスパートナー。  DIOと名乗ったその男は、パワー・スピードもさることながら『時間を止める』ことの出来る相手だった。  最初はその能力―ザ・ワールド―の前に防戦一方だった古城メンバーだが、 アリスがDIOの使う能力の正体に気づき、同じ『時間を止める力』を持つ ロックマンが時を止め返すことによって、勝負は互角となるかに思えた。  だが…。 「どうした小僧?守ってばかりでは勝てんぞ!」  その言葉と共に、DIOは新たに幾つものナイフを時を止められている仲間… リョウ、アリス、ミクの方へと放つ。  時が動き出せば、そのナイフは無防備な仲間たちへと刺さってしまうだろう。 「くっ!」  そうさせない為にも、ロックマンはナイフを一つ一つ破壊していく。  そんな彼の懐に凄まじい勢いでDIOは踏み込み、強烈な一撃を与えていく。 「無駄ァ!」 「…ッ!」  防ぐことが出来ず、ロックマンが吹き飛ぶ。  DIOは更に追い討ちをかけようとするが、 「チ…時間切れか」  時を止めていられる時間には限りがある。  少し残念そうにつぶやくと、DIOは距離をとるべく後退した。  再び時間が動き出すと同時に、ロックマンが古城の壁に叩きつけられた。 「が…ハッ」 「――ロックマン!? くそ、またか…!」 「ロック!? ミク!急いで回復を! 私が時間を稼ぐわ…行って、上海!蓬莱!」 「ぇ…あ、は、はいっ!」  倒れそうになるロックマンをリョウが支え、ミクが癒しの歌を歌い、 それを邪魔させない為にアリスがDIOへと攻撃を仕掛ける。  それは誰が見ても不利な情況だった。  時を互いに止め、ロックマン対DIOの一対一の勝負。  だが実際は、圧倒的な力と止まっている者を含めた全員を狙うことの出来るDIOと、 仲間を守りながら戦うロックマンという、圧倒的に不利な戦いとなっていた。 「LaLaLa......ロックさん、大丈夫ですか…?」 「うん、大丈夫だよ。ありがとうミクさん」 「すまないロックマン。俺たちにもヤツの力に対抗できる手段があれば…!」 「謝らないでくださいリョウさん。皆の力があるから、こうやって戦えるんです」  心配そうなミクと悔しそうなリョウに一言ずつ返すと、ゆっくりと立ち上がる。  きゅ、と。  前線に復帰しようとするロックマンの左手を誰かが掴む。  振り向くと、泣きそうな顔で俯いているミクの姿。 「ミク、さん…?」 「無理、しないでください…」  声も震えて、今にも泣いてしまいそうだ。 (あ……)  よく見ると、掴んでいるミクの手が小さく震えている。  きっと、ミクは。  味方が傷ついていく事、自分に力がない事。  それが悲しくて、悔しいのだろう。  ――ミクさんはとても優しいから。 「大丈夫だよ、ミクさん」 「え…?」  そんな彼女の震える手を両手で包むようにしてロックマンは話しかける。  少しでも彼女の不安が、心配が、消えるようにと。 「絶対に大丈夫。皆で、勝とう」  その一言を伝えると、そっとミクの手を離し、前線へと駆けてゆく。  仲間を守るために。  そして、勝つと言った事を本当にするために。 「覇王翔吼拳ッ!」 「受けなさい、七色の万国人形…仏蘭西・和蘭・西蔵・京都・倫敦・露西亜・奥尓良!」 「この、ブーストナックルッ!」 「みっくみくにしてやんよ〜♪」  それぞれの高火力技を一斉に繰り出し、DIOに確実にダメージを与えてゆく。  だが以前DIOは余裕の表情を浮かべたまま。  逆にロックマンたちは、確実に疲労の色が見え始めていた。 「なんなのよアイツ…まさか不死身だなんて冗談は言わないわよね…」  あの二人よりよっぽど厄介じゃない、とアリスが呟く。 「フン、どうした…まさかこの程度とでも言うつもりか?」 「クッ」  DIOの言葉にリョウが悔しそうに呻く。  笑みを浮かべたままのDIOを真っ直ぐ見据えたまま、ロックマンが問う。 「…貴方は、どうしてそんな凄い力があるのに、魔王の手下なんかに…」 「ほう?まだ喋るだけの余力は残っているようだな。ならば逆に問おう…何故キサマは戦う?」 「?」 「このDIOと同じ『時を止める能力』を持ちながら、何故ソイツらを庇いながら戦う」  足手まといだろう? そう言ってDIOは射抜くような眼でロックマンを見つめる。  DIOの問いに、ロックマンは考えることはなかった。  なぜなら、答えはとうに出ているのだから。 「仲間、だからです。一緒に戦ってきた、大切な仲間だからです!」  鋭い眼光から決して眼を逸らさずにロックマンは答えた。  その答えが不服だったのか、DIOはフン、と小さく笑う。 「つまらん答えだ。ならば、大切な仲間と共にあの世に送ってやろう!」  その言葉に、全員が改めて構える。 「構えたところで無意味だ。…これで最後だ! 世界(ザ・ワールド)ッ! 時よ止まれ!」 「くそっ! タイムストッパー!」  互いの能力によって、二人を除く全ての『時間』が『止まる』。  再びナイフを投げてくるかと警戒したロックマンに、真っ直ぐDIOが向かってゆく。 「まずはキサマからだッ!」 「やられてたまるかっ!」 「無駄無駄無駄ァ!」  すかさずチャージショットを放つが避けられ、逆に重いラッシュを受けてしまう。  倒れそうになるのをなんとか堪え、エアシューターを使いDIOと距離をとった。 「く…っ!」 「フン、小賢しい真似を」 「ま…だ、だ…っ!」 「無駄な足掻きだ。心配するな、オマエの仲間も直ぐに後を追わせてやるッ!」  凄まじい速度でDIOが迫る。 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」  先ほどとは比べ物にならないラッシュがロックマンを襲う。 (さっきよりも早い…ロックバスターじゃ押さえきれない…!  僕にもっと、もっと力があったら…!)  悔しさで左手を握り締める。と、そこでロックマンは気づいた。  ――ロックバスターは一つではないことに。  両腕ともロックバスターに変形することができる。だが、 エネルギーが強力なため、片方ずつしか撃つことができない 。  ロックマンはライト博士からそう言われていた。 (もしも両腕のバスターを使えば、あっという間にエネルギーが尽きてしまうだろう。 最悪、お前の身体が持たんかもしれん…。  だからロック、約束じゃ。絶対に使うんじゃないぞ…?)  ライト博士は純粋に、ロックマンの事を心配してくれていた。  けれど。 (ごめんなさい、ライト博士…)  自分は。  守るために、戦う力を貰ったから。  そして…今。  大切な仲間を。 『無理、しないでください…』  きっと、誰より優しいあの子を。 (守りたいんだ…!)  一瞬で左腕をバスターに変え、両腕をDIOへと向け…放つ! 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」  身体中のエネルギーが両腕のバスターへと送られていくのが分かる。  脚に力が入らなくなってゆく。けれどまだ倒れるわけにはいかない。  バチバチと右腕のバスターが火花を上げ始めた。それでもひたすらに撃ち続ける。  視界が霞んでいく。それでも決して狙いは外さないようにと相手を見据える。  意識が薄れてゆく、それでも…。 「勝つって…約束、したんだ…!」 「なん…だと…ッ!?」  両腕から放たれるロックバスターが徐々にDIOのラッシュを押し返してゆく。  そして、ついにフルパワーのロックバスターがDIOを捕らえた。 「うぐおおおおおああああああああ!? なあにィィィィィィィィ!?」  絶え間なく打ち込まれるロックバスターの先から、DIOの叫びが聞こえてくる。 「ば…馬鹿なッ!……こ、このDIOが…このDIOがァァァァァァ〜〜〜ッ!!」  DIOの断末魔が古城に響き渡る。  両腕のバスターからの集中砲火でDIOは跡形も無く消滅してしまった。  タイムストッパーとザ・ワールドの効果が切れ、今の状況を理解した仲間がロックマンの元へ。  アリスは驚いた顔、ミクは泣きそうな顔でロックマンへと詰め寄る。 「ちょっとロック、あの化け物倒したの!?」 「ロックさん、腕が…! す、すぐ直しますねっ」 「そ、そうよね…回復アイテムあったかしら…」 「ふ、二人とも落ち着いて…」  そんな二人を見、守ることが出来たのだと安堵のため息をつく。 「あ…れ…?」  ふらり、と。  身体中の力が抜け、ロックマンは地面に倒れこみそうになる。  それをリョウが支えて、地面に激突は免れた。 「ち、ちょっと、大丈夫なの?」 「ああ、気を失ってるだけみたいだ」  リョウはそのまま、意識を失ってしまっているロックマンを背中に背負った。  「っと。頑張りすぎだと言わざるを得ない…が、ありがとう、ロックマン」 「ほんと、ロックが敵と同じ能力持ってなかったらどうしようかと思ったわ…」 「ロックさん…ありがとうございます…」  三人の言葉が聞こえたのかどうか。  背負われているロックマンは小さな笑みを浮かべていた…。 「しかし…てめーの敗因はたった一つだぜ、DIO。たった一つのシンプルな答えだ。 『てめーは覇王翔吼拳を使えn」 「馬鹿なこと言ってないで早く安全なところまで行くわよ!」 「し、謝罪せざるを得ない…」